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『春と私の小さな宇宙』 その50

※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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ハルは伊藤に自身の計画について話していた。

第三世代の人間を増やす計画である。

研究には費用や設備、物資などが必要になる。計画を円滑に進めるため、ハルは伊藤に計画のあらましをわざと伝えた。

よって伊藤の言いなりなる代わりに、充実した実験環境を手に入れたのだ。

それから一年ほど経って、伊藤はハルにある提案を促してきた。第三世代同士の子供をつくり研究しよう、と。

願ってもない提案だった。のちの研究に大きく関わるものだったからだ。

伊藤はミハエルの居場所を知っていた。彼は子供の頃から家を変えていなかった。それにつけ込み、伊藤は時折ミハエルと連絡を取っていたようだった。

ハルはその事が信じられなかった。最後に見たミハエルの顔を思い浮かべる。屈託のない笑顔だった。あの後も、悪夢はまだ続いていたのだ……。

伊藤の仲立ちで十五年ぶりにハルとミハエルは再開した。久しぶりに見た彼は元気そうだった。目の隈も取れている。伊藤に気づかれぬよう、テレパシーで住所や近況などの情報を交換した。彼と秘密裏に会うために。

お互いの情報を共有し、彼は夢である宇宙飛行士を諦めたことをハルは知った。どう やら伊藤の監視などの様々な理由があり、断念したのだという。

もう一人、彼の後ろに女性が立っていた。ハルには見覚えのない顔だった。彼女はメアリーというロシア人だった。彼女も夢を諦める理由の一つのようだった。

ミハエルの説明だと結婚相手らしい。ハルはなぜか胸が痛くなった。 実験は体外受精で新たな第三世代をつくるというものだった。

工程はハルとミハエルからあらかじめ採取した卵子と精子を受精させて、それを子宮に戻す。それだけである。 受精卵は二つ用意されていた。ひとつはハルに、もうひとつはメアリーに移植された。 メアリーは生まれつき卵子を生成できない体質だった。それを見かねたミハエルは伊藤の提案を飲んだようである。

彼は祈って、彼女の移植手術を見守っていた。それを見ていたハルは、やはり胸が痛かった。

移植は二人とも成功し、経過を見ながら生活することになった。ミハエルは伊藤に彼女の様子を逐一報告する条件で実験を承諾させられたようだった。

彼もまた、実験から逃れなれないのである。 結局、ミハエルはそのままメアリーと母国のロシアへ帰国して行った。

残ったハルは、 彼の遺伝子が配合された受精卵をその身に宿したまま、一人で家に帰った。

意味も分からず、強い消失感に襲われた。


十五分後。
講義を終えた宮野が室内に入ってきた。ハルの姿を見た宮野は不思議そうにしている。

「どうしたんだい、ハルさん? こんなところで?」

「助教授をお待ちしていました。教授が今晩、ここでお話ししたいことがあると言っていました」

「どういうことだい? 僕が話をつけると言ったはずだよ?」

「いえ、研究の話ではありません。あなたの秘密がわかったと言っていました。 これを見てください」

ハルは渡されたばかりの診断書を宮野に見せた。それには宮野とユウスケのDNAが完全一致したことが、はっきりと提示されている。

「こ、これは・・・」

宮野の顔が青ざめる。

「どうやら、先手を打たれたようですね。教授は元々、あなたをここから追い出すつもりだったのです」

「どうすれば・・・」

「これを使ってください。トリカブトの毒が入っています。前に渡したスタンガンと合わせれば、確実に口封じできます」 

伊藤に渡した注射器と全く同じものをハルは宮野に渡した。

「しかし殺すのはいくらなんでも・・・」

「なら、研究の話は断ります。私は長年、あの男の実験台にされているのです。その呪縛を解き放ってくれるのなら、私はあなたの実験体にもなりましょう」

断られるのが嫌なのか、甘い言葉に誘われたのか、宮野はすぐに肯定した。

午後十一時に伊藤がこの場所で待っている旨を伝え、ハルは部屋を出た。

水やりが完了する。撒いた種が順調に成長していくのをハルは感じた。

今日は忙しくなりそうだった。


続く…


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