【6分で理解】再エネは迷惑?これからさらに注目されるアンシラリーサービス
電気の品質が大事だというお話を知人にしたら、質問を受けました。
「アンシラリーサービスってなに?電気が届けばそれでいいじゃん。再エネ増やせばいいじゃん。」
その時は言葉に詰まってしまったので、この記事で電気の品質維持への弛みない努力が再エネ普及を支えていることについての私の理解をまとめて、その方へのアンサーアーティクルとしたいと思います。
■電力事業=安定供給
電力供給事業の最重要・最優先事項は、安定供給です。
各電力会社は、供給約款というサービス提供の約束事集を用意しています。ボリュームのある約款ですが、一言でシンプルに表すと「電力を安全に安定的に供給します」と約束しているルールブックとなります。
いつでも、途切れることなく、安全に、必要とされる量の電気を届けるには、自分でコントロールできる電力を用意しておく必要があります。電気は、生ものよりも鮮度が短く、作った瞬間に使わなければいけない(同時同量)為、必要とされる電気の量を予測して、それに見合った発電が出来る施設と供給設備を備えることと同義です。必要とされる電力の予測(電力需給予測)はもちろんのこと、コントロールしやすい発電設備があれば、より安定的に供給が可能となります。
■再エネが増えると迷惑?
脱炭素などを背景にして、いまニーズが高まっている再生可能エネルギー電源は、コントロールしづらい電源です。理由は二つあります。
1.発電量が天候に左右される
2.電気の流れ方が一方通行(非同期、直流)
1については、曇天時の太陽光発電や無風時の風力発電が思い起こされると思います。では、2にある「電力の流れが一方通行」とはどういうことでしょうか。
正確性を薄めて、物事を非常にシンプルにすると、電源は発電の方法で二つのグループに分けることができます。同期型風力発電、バイオマス発電は一旦除きます。
グループAは、モーターの回転を伴う発電です。三相交流として表します。いわゆる、セルビア出身の科学者ニコラ・テスラの産み出した「交流」です。なめらかでスムーズな曲線で、デジタルだけれどもアナログのような線をかける微分のようなものです。
グループBは、半導体による発電です。ゼロイチの直流です。なお、太陽光発電は完全な半導体による発電ですが、風力発電は安定性の低いモーター発電であるためパワーコンディショナ―で制御する必要があり、グループBに分類されます。一次関数のグラフのような直線です。
グループAにはあって、グループBには無いものがいくつかあります。慣性力や同期力です。慣性力は、動きを維持できる力のことです。同期力は、まわりに合わせられる力のことです。
子供が飽きてすぐ寝てしまうような会議の場でも、大人であればどうにか堪えて議題に集中し続けよう(慣性力)としたり、隣の人に合わせて相槌をうって会議をきちんと聞いているかのように振舞う(同期力)ことができます。最終的には居眠り(モーターの回転ストップ)してしまうとしても、子供のように周りの大人の気を引こうとして大声で叫んだり(ブラックアウト)、会議の内容を子供にもわかる言葉で簡単に説明してもらう(パワコンによる制御)ようなことはしません。
再生可能エネルギー電源が対策なしに加速度的に導入されることは、下記のようなリスクをはらんでいると言われます。グループBの電源が増えると、下記の表の左側に記載の事項が発生し、結果として右側のような事象が発生し得ます。
■どうしたら適正に再エネを増やせるの?
大量に再生可能エネルギー電源を導入して電源として利用していくために、再生可能エネルギー電源増加で発生しうる課題への対策が下記の通り考えられています。
慣性力の増加については上記の対策で技術的に対応可能であり、同時に同期力低下にも対応できることが明らかにされつつあります(2021年5月26日 第61回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 配布資料 資料4 「再エネ主力電源化」に向けた技術的課題及びその対応策の検討状況について 16ページ)。今後、増加させた慣性力の調達について、市場創設も含めた慣性力の調達環境が整備がされていき(2021年8月23日 第64回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 配布資料 資料3「再エネ主力電源化」に向けた技術的課題及びその対応策の検討状況について 47ページ)、再生可能エネルギー電源や蓄電池それぞれでのスマートインバータ利用による擬似慣性機能拡大も加わって、再生可能エネルギー電源が主力電源として利用できる環境が整っていきます。
再生可能エネルギー電源が主力電源となる環境下で、分散型電源によるエネルギーを集めて再分配するアグリゲーションビジネス、特定の地域内での電圧制御を可能にする系統蓄電池活用ビジネス等、再生可能エネルギー電源の増加やそれに伴う新しい電力供給の仕組みに関して、事業が芽吹きつつあります。再生可能エネルギー電源の導入に資する実証実験も、複数年継続して実績を積み上げているものが複数でてきました。経済産業省の「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業」に採択された企業に注目してください。海外では、リアルタイムでの慣性力の計測という電力制御技術に基づいたサービスを提供しているベンチャーもいます。
■参加者が増えるとルールも増える
制御技術や市場環境の整備での対応が可能であることが見えてきたとはいえ、いますぐにそれらが成熟することはありません。成熟を待っている間に一気に大量の再生可能エネルギーが系統に接続されることは、大きな電気事故の原因となり得ます。そのために、発電をし電力を供給する電力供給事業者が従うべき国際的規程があります。グリッドコードです。現在、日本ではその国際的規程を参考にし、どの規程を採択して事業者にルールを守ってもらうか議論しています。
また、国内では、これまで旧一般電気事業者の送配電部門が担ってきた送配電事業の一部を新たな送配電事業者が担うようにする配電事業ライセンス制度の説明会が開催されました。水道・ガス、鉄道など生活インフラ事業者やテック系企業の参画が想定されているようです。これまで電力安定供給を支えてきた一般電気事業者といかに密に連携できるかが鍵を握ります。
■まとめ
再生可能エネルギー電源の大規模導入の実現には、日々の電力制御技術の進化や市場・法制度の整備が必要となります。同時に、配電ライセンス等、新規電力供給事業参画者に向けたルールも整備されており、様々な側面から再生可能エネルギー電源を含めた電力安定供給の実現が叶えられようとしていることが分かります。
先述の供給約款には、需要家(お客さん)側のルールも書かれています。相互の信頼によって電力供給事業が成り立つのだと感じ取れます。電気を使う側にも、これからの電力供給事業のあり方に思いを馳せることが可能なのです。