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りりがワカバと結ばれる条件


本稿は、アニメ作品「ケムリクサ」に関する少しばかりのネタバレがあります。





りりはそのままではワカバと結ばれない


りりはワカバに対して幼いながらも恋慕の情を抱いていました。その想いは彼女の幼い見た目からは想像もつかない強いもので、成り行きとはいえ、りりは人間であることを放棄しました。

Screenshot_2021-04-23 [MAD] ケムリクサ 「りり夢」

しかも、ケムリクサ転生に失敗して死ぬか、ケムリクサとして6姉妹に転生して自身は消滅するという二択。愛故でなければ狂っていますし、愛故であっても普通は選択しない選択肢です。

このあたりは、親が死亡しており、自身も一度は死んだ身で人間として地球に居場所がないことを、幼いなりに理解していたということも忘れてはいけません。彼女にはワカバしかいないのです。

Screenshot_2021-04-23 [MAD] ケムリクサ 「りり夢」6

彼女にしてみれば、この世で心を交わせる相手はワカバだけ、しかもワカバは究極的に善良で、大人であり、研究者として優秀で、でもちょっと庇護欲もかきたてられる存在です。彼女がワカバに執着するのは、そしてワカバを失うことを何より恐れるのは当然です。彼女にしてみれば、世界<ワカバ であり、ワカバが過労で死ぬくらいなら赤い木で世界を滅ぼしてしまうのもやむなし、といったところでしょう。

ですが、悲しいことに彼女がワカバと結ばれる可能性はあまり高くありません。結ばれる、の意味次第でもありますが、少なくとも
年齢の違い
寿命の違い
種族の違い
ワカバの立場(現地の原住民をコピーしてしまったルール違反)
ケムリクサ星人に恋愛という情熱が残っているか
そもそもワカバの体は生体アバターである可能性が高い

等の障害があります。そして、生物学的な意味で結ばれる(子孫をつくる)ことについては絶望的です。
寿命についても、ケムリクサ星人のあまりにも壮大な仕事から推定するに、人間より相当長い時間スケールをもっている可能性が高く、例えるなら、100年程度の寿命しかない人間と、数千年の寿命を持つエルフとの違いのようなものかもしれません。

子供を作らなくても結婚しろ、ということもできますが、彼女はケムリクサ星人の文化の中でただ一人の地球人であり、異星人としての疎外感も障害になりそうです。いずれにしろ乗り越えるべきものは多い。つまり、何が言いたいかというと、りりが赤いケムリクサを生み出さなかった場合、りりとしてのプチバッドエンドも有り得たという事です。


りりの生み出した技術「ケムリクサ化」

りりがワカバを助けるために緊急対処的に考え出した策は、自身をケムリクサとして転生させる方法でした。これは人としての生物学的な特性を全て捨てて、大人に相当する体を作り、そこに自身の記憶と意思を受け継がせる方法です。生まれ変わりをも通り越した、新種人類の練成+記憶の引継ぎというマッドサイエンティストも真っ青の暴挙ともいえる手法です。

Screenshot_2021-04-23 [MAD] ケムリクサ 「りり夢」5

この大発明は、正直赤いケムリクサも霞むほどの技術革新だと思います。生物学的にこの状況を俯瞰すると、生命史をも書き換える大転換なのです。ケムリクサ人体の生成は、言い換えると「それまでDNAという遺伝子で設計されていた生物が、遺伝子の乗り換えを行った」ことになります。つまり、遺伝子がDNA・RANからケムリクサに変わったのです。


ケムリクサが遺伝子として機能する

遺伝子の本質は、情報の保存、情報のコピー(転写)、情報に基づく物質合成(翻訳)です。
これらはそれぞれ
情報の保存・・・ダイダイ
情報のコピー・・・モモイロ
情報に基づく物質合成・・・ムラサキあるいはミドリ
にて可能な機能です。

ケムリクサ転生

ならば、本体のケムリクサは少なくともこの3種の機能を併せ持ったケムリクサということができます。

Screenshot_2021-01-07 ケムリクサ Episode 10 アニメ 無料動画GYAO  (4)

さて、繰り返しますが、これは生物学的には極めて重要なステップです。
これらの機能を分子生物学レベルに対応させることができます
情報の保存・・・・・・・・・DNA(RNA)・・・ダイダイ
情報のコピー・・・・・・・・RNA ・・・・・モモイロ
情報に基づく物質合成・・・リボソーム・・・ムラサキあるいはミドリ

となります。

つまり、りりは図らずも、あるいは感覚的にはわかっていたのかもしれませんが、「遺伝子」の一連の能力を全て実装した、新たな生物を作り出して問題を解決しようとしました。

Screenshot_2021-01-07 ケムリクサ Episode 12 アニメ 無料動画GYAO

6分割7枚になってしまったのは、人間のDNAの情報を全て格納はできなかったのと、記憶を保存する必要もあったから、と見ることができます。


りりはケムリクサ化したことでワカバと結ばれる

結局のところ、りりは人としての人体という枷を自ら破棄し、完全に生まれ変わることを選択しました。それまでの自分を、アイデンティティーを、才能を、一旦全て捨て去り、自身の能力と才能と命と引き換えにワカバを救うことを選択しました。

Screenshot_2021-04-23 [MAD] ケムリクサ 「りり夢」8

しかし結局、彼女はケムリクサ化の直前にその目的すら否定され、新しく生まれる自身の生まれ変わりに何も背負わせないことを選択します。

これは、哲学的?には、意図しないにせよ世界とワカバを滅ぼしてしまった罪の禊と転生といえましょう。生物学的には、彼女はケムリクサ化したことでワカバと(ほぼ)同じ種族になれる新たな道を拓きました。これを仮にケムリクサ人(びと)と名づけましょう。ケムリクサ星人とは別物です。ケムリクサ人は遺伝子機能をすべて本体のケムリクサでまかなっており、生物としてもかなり強靭です。特筆すべきは、遺伝情報を読み取る対象があれば、その対象をケムリクサ人として転生させることができる、という点です。

Screenshot_2021-01-06 ケムリクサ Episode 3 アニメ 無料動画GYAO 5

もっというと、りりとワカバが子孫を残す際に必ずしもワカバに転生してもらう必要はありません。ワカバの遺伝子情報を半分だけ写し取り、配偶子とすることもできるからです。

いずれにしても、りりはりんとしてわかばと会ったことで原罪を振りほどき、真に幸せになる技術と権利をその手中に収めたといってよいと思います。


ワカバの体は一種のアバターかもしれない

そもそも、ケムリクサ星人が人間と同じ身体構造(前後の区別がつく顔があり、左右はほぼ対称で手足が2本ずつ、口と鼻がひとつずつあり、目と耳は二つ)である保障はありません

Screenshot_2021-01-07 ケムリクサ Episode 11 アニメ 無料動画GYAO 4

現地人(地球人)に見つかったときにもトラブルにならないよう、現地人と同じ構造を持ったアバターをつくるというのは、SFでは良くある話です。

そうなると、りりの行った人体の作成は、ケムリクサ星人の実際の作戦をなぞったことになるかもしれません。


ケムリクサ星人からみたりり

ちょっと視点を変えて、ケムリクサ星人の視点からりりを見てみましょう。わかば(ワカバ)からすれば、りりは異星人(のお嫁さん)です。作中にある描写から、ケムリクサ星人はすこし活気を失いつつある、成熟しすぎた種族という印象を受けます。理由はいくつか考えられますが、例えば

文化が発展しすぎて、快適だが行き詰った世界になってしまった
文化的に去勢され、恋とか愛といった概念が薄れた
医療により病気の原因を取り除きすぎて遺伝的多様性が失われた

などと想像します。特に、社会が安定してくると保守的に物事を処理することが有利になり、新たな挑戦とか画期的なアイデアがでても、「採用する・実現する」必要性が薄れてきます。これは文化的・生物的なぬるま湯であり、ほどほどに快適でしょうが、生きる喜びのようなものには欠けるように思います。

現代日本にも、すこしこういう傾向はあるように思います。チャレンジするよりも保守的に生きた方が無難です。失敗すると痛いし恥ずかしいし色々損します。何かを作って発表しても、あら探しをされて恥をかかされて傷つけられます。それなら何も作らない方がいいと感じるかもしれません。

そんな中で、自分の才能を一生懸命発揮し、失敗しながらも努力を続けるちびっこ異星人がいたら、

Screenshot_2021-01-03 ケムリクサ Episode 11 アニメ 無料動画GYAO 3

それは心惹かれるのではないでしょうか。

そもそもケムリクサ星人は、あまり革新を好まない、というか新しいものを作るという意志が薄かったのではないかと思っています。そもそも、複数のケムリクサを混ぜる処理にはプロテクトをかけるべきです

Screenshot_2021-01-07 ケムリクサ Episode 7 アニメ 無料動画GYAO 3

アオイロのケムリクサに個人認証を組み込んで発動制限しているのですから、できないことはないはずです。なぜしないかというと、「やるとは思ってなかった」だと思っています。新たな発明をする動機が薄ければ、わざわざプロテクトをかけようとも思わないでしょう。

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実際、長らくケムリクサに携わってきたはずのワカバにも、その発想は(まったくないわけではないにしても)ほとんどなかったようです。他方、りりと関わるようになってからワカバにも変化が生じたのか、最後のミドリの応用はかなり画期的です(皮肉な話)。

Screenshot_2021-01-07 ケムリクサ Episode 11 アニメ 無料動画GYAO 何か思いつく

彼女の存在は、ケムリクサ星人の枯れかけた魂にとって、新しい泉のようなものだったのではないかと、

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まあ、これは勝手な想像ですが。


まとめ

りりは、その才能と犠牲でもって、生物として新たな段階を踏み出しました。これはケムリクサ星人にとっても文化的に新たなステップと言えるかもしれません。その結果、りりはりんとして生まれ変わり、ワカバと真に結ばれる新たな人生を踏み出すことに成功したと言えます。

Screenshot_2021-01-04 ケムリクサ Episode 12 アニメ 無料動画GYAO

お幸せに。

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