ミドリちゃんの希少性

前稿「ケムリクサは培養増殖が基本である説」で、ケムリクサの繁殖の特性について考察しました。これに関連して、ミドリちゃんが他のケムリクサと違って大きく成長した理由についてもう少し考察していきます。

作中に出てくるケムリクサは、その多くが「葉だけケムリクサ」です。茎もなく、葉だけが突然生えています。

どうもこれ以上成長する様子はありません。それに比べ、ミドリちゃんは大きく成長して新たな葉を次々生み出しています。

ウスイロもそこそこ成長しているようです。

この違いについて、細胞の組織の違いではないかというのが本考察です。

植物組織のうち、成長点の組織は完全再生可能

ケムリクサに完全に当てはまるかどうかはわかりませんが、植物の場合、成長点（茎頂組織）は分化万能性を持っています。

つまり、理論上は茎頂組織から根も葉も茎も花もすべて作れます。人間でいうところの万能細胞なのです。万能細胞は、動物でも植物でも成長が進むにつれそれぞれの役割に特化して消えていきます。性質としては消耗品に近いものです。人間の場合はほとんど残らないので、人間は失った組織を再生することはできません。一方、植物の種類にもよりますが、人間と違って植物は体中の色々な部位に万能細胞を残していると考えられています。また、切断などによって脱分化（万能細胞へ戻る作用）が起こります。高校生物で「カルス形成」として習ったはずですね。

ミドリちゃんの核とは、この未分化組織ではないかと思うのです。

これが残っていると、体の一部からでも体全体を再生し、幹も根も葉も生み出せます。

部位によっては再生不可能

植物には挿し木という増殖方法があります。これは、植物の体の一部を切り取ってきて、土や水に浸して再生を待つ方法です。ブルーベリーやカネノナルキ(金のなる木)、チェリーセージなどはやり方さえ知っていれば挿し木はすぐ成功します。

一方で、ドングリやアンズは激ムズです。アセロラは特殊なコツがあり、知らないと激ムズ。

そして、最も簡単な種類のひとつカネノナルキでも、挿し木の仕方を間違えると失敗します。それは、葉の根元をきちんとつけること。

実はここに未分化細胞が集中していることが知られており、例えば乱暴にちぎって葉の付け根を落としてしまったりすると再生できません。きちんと葉柄ごとちぎると、未分化細胞が新たな成長点となって体全体を再生してくれます。

ミドリちゃんの場合、運よくこの成長点部分が壁に引っ掛かっており、さらに運よくりつ姉に拾われたことで成長できたのだと推測できるのです。

再生不可能でも大きくなることだけはできる

さて、葉だけのケムリクサは何なのか。成長点がなさそうなのは見ての通り。実は同じような状態の植物が結構有名です。その名も「ラブラブハート」。

その正体は、意図的に成長点を切り落として土に埋め込んだもの。植物としての正式名称はシャムサクララン、ハートホヤでも通じます。本来はつる植物なのでちゃんと茎がありますが、成長点を切り落としているので新たな葉や茎がでることはまずありません。バレンタインに飾り用に売られることが多いですね。

これは結構あこぎな商売で、成長点を切り落としているため、早いと数ヶ月で黄色くなって枯れてしまいます。
逆に言えば、こういう管理をすれば絶対に増えることはないので、小さな葉をシロが植えつけて管理していたとすると、葉なしケムリクサはやはり栽培品という結論になります。

こういった個体は、細胞そのものが大きくなることで少しは大きくなりますが、そのうち枯れる運命です。

りつ姉も言っていましたが、色々なものが弱り、無くなっていく世界で、増えることができるミドリちゃんは宝物です。まさに天からの、いや故ワカバからの贈り物であり、最後の最後まで一行を守り続けたのは彼の遺志だったのだと思います。

今回は以上です。