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心も体も女性だったはずの僕が"男性"になるまで(1/2)

僕は女性として生まれ、男性として生活しているトランスジェンダーです。
こういう人のことを、専門用語ではFTM(Female To Male)といいます。
ちなみに男性として生まれた女性はMale to FemaleなのでMTF。

これらは「おなべ」「おかま」とは違って蔑称ではないので、LGBTQ界隈ではとてもよく使われる言葉です。

しかし僕がFTMなのかというと、正確にはそうではありません。
僕はFTMではなく、FTXという分類になります。

このXは、Xジェンダーを指します。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Xジェンダー(エックスジェンダー、X-gender)は、男女のいずれか一方に限定しない性別の立場を取る人。Xジェンダーには男女二元論におさまらない性同一性を包括的に含んでおり、中性や、両性、無性、性別の枠組みから脱するというあり方、女性か男性か定まりきらない流動的であるというあり方など多様である。ノンバイナリーともいう。

Xジェンダーの場合も、女性として生まれた人はFTX、男性として生まれた人はMTXといいます。

FTXの僕が、なぜ男性として生きているのかという話をします。
長いですが、読んでいただけると幸いです。


とにかく浮く

僕は小学生ぐらいからずっとクラス内で浮いていました。

全く空気が読めなかったことも大きな原因だとは思いますが、周りの子が盛り上がっている話題に興味がなかったり、逆に自分の好きなものの話をしてもそっぽを向かれてしまうことが多かったです。

いじめられはしなかったものの友達ができず、「近くにいれば話すけど、わざわざ遊びに誘うほどじゃない」という感じのポジションでした。

どこかの女子グループに入れてもらえても、なんだか噛み合わないのでいつの間にか遊びに誘われなくなりました。
何度も省かれて不貞腐れて…という流れを繰り返すうち、僕は友達を作ることを諦めました。

そればかりか、自分は悪くないと思うあまりにこんな勘違いをしました。

「あたし男っぽいから、女子とは合わないんだ。」


女は女

高校は地元の工業高校に行きました。
そこを選んだ理由の半分は、電気の勉強がしたかったから。
残りの半分は、女子が少ないから。

電気科は特に女子人気が低く、クラスは自分以外全員男子。
当初の僕は「あたし男っぽいから絶対に馴染める」「女子いなくてラッキー」などと思っていましたが、もちろん現実は違いました。


たとえば誰かが下ネタを言ったとき、どんなに周りと同じように笑っていても毎回「女子いるんだから下ネタやめろよ~w」と言う人がいたり。

男子生徒のことは苗字呼び捨てで呼ぶのに、僕のことだけ名前にちゃん付けで呼ぶ先生もいました。

柔道の授業では、ペアになった人が「体触っちゃまずいでしょ」とか「俺彼女いるんだけど」とか言うのでまともにできません。

おまけに、隣のクラスのギャルが「女子一人でかわいそうだから仲良くしよう」と話しかけてくるのを軽く受け流していたら、男好きだのビッチだの、あることないこと言いふらされる始末。

性別しか違わないのに、みんなと同じようにいかない。
自分が男じゃないことが、どんどんコンプレックスになっていきました。


うっかりモテてしまう

こんな僕のことも好きになってくれる人がいました。

なぜなら、ただでさえ女子の少ない工業高校においてギャルでもオタクでもない女子はとても貴重だし、僕は顔もそこそこ可愛いから。

1年生の秋ごろから、「あいつお前のこと好きらしいぞ」という話を何度か聞くようになりました。
その"あいつ"を観察してみると、確かに僕を意識しているようでした。

人から好かれるのは嬉しいことです。
しかし僕にとっては、友達に恋愛対象として意識されている感覚自体がどうしようもなく気持ち悪く思えてしまったのです。

僕はその人を避けるようになり、関わらなくなりました。
毎回このパターンなので、惚れられるたびに友達を失いました。

さらに「人の好意を気持ち悪がるなんて最低だ」と、どんどん自己嫌悪に陥っていきました。


検索する

そして2年生の冬のある日、数々のストレスが重なってピークに達した僕は、なんだかもうわけがわらず、泣きながら帰宅していました。


「女子とは合わない」と思って工業高校に逃げたけど、男子とも上手くいかないじゃないか。

男子に好かれて気持ち悪いなんて、私は女じゃないのかもしれない。(当時は、レズビアンかもしれないという発想がありませんでした)

けど、「もし男に生まれてれば」と思うことはあっても、「自分は男だ」と思ったことはないよなあ。

テレビで見たトランスジェンダーの人はみんな「幼稚園の頃からずっと、おちんちんが生えてくるって信じてた」とか言ってたから、自分は違うはず…

と、いろんなことを考えていました。

そしてぐしゃぐしゃの顔でスマホを出し、「性別 違和感」で検索。
すぐにヒットしたのが、Xジェンダーというわけです。

男でも女でもないという概念を知った瞬間、自分は絶対にこれだと確信しました。
今まで「女の体に生まれたんだから女」と何も考えずに生きてきたものの、改めて考えてみると僕は男女どちらにも、同性とか異性とかいう意識を持ったことがありませんでした。

ずっと「性別しか違わないのに」と思っていたけれど、一般的にはその性別の違いがかなり重視されているということを初めて知りました。

僕が昔からずっと人付き合いで感じてきた気持ち悪さの正体はきっと、女子には同性として見られ、男子には異性として見られることへの違和感だったんだと気付きました。

「そうか、私はXジェンダーだったのか。」


開き直り散らかす

さて、自分を無事Xジェンダーに分類することができた僕がどうしたかというと、とにかく開き直りました。

「自分は男でも女でもないのに女扱いしてくる周りの奴らが悪い」
「仲間外れにしてくるクラスの奴らみんな嫌い」
「おれは女じゃないから女子が話しかけてくるな」
などなど…
思い返すことすら恥ずかしいのですが、心身ともに幼かった僕はこんな感じで全てを自分以外のせいにして憎んでいました。

「見た目が女だから女扱いされるんだ」とスラックスで登校したり、髪を耳の上まで切ったりしても、「あいつ急にどうした」とクラスをざわつかせただけで当然何も変わりませんでした。
それをまた周りの人のせいにし、クラスの人たちを恨んで何も喋らなくなり、孤立して腫物扱いされたまま卒業してしまいました。


カミングアウトする

気まずいまま高校生活を終え、専門学校に進学。
実家を離れ、学校のある札幌で2年間一人暮らしをしました。

同じ学校に地元の知り合いがおらず、人間関係がリセットされるので僕はわくわくしていました。
「最初からカミングアウトすれば、女子扱いを回避できる」と考え、クラス全員の前で自己紹介をするときにカミングアウトしました。

ただXジェンダーの説明をするだけでは重く受け止められてしまうと思い、「ポケモンでいうとメタモンとかポリゴンみたいな…」と付け加えたらややウケして、ポリゴンと呼ばれるようになりました。

それで女子扱いが回避できたかと言われれば微妙なところですが、言わないよりはよかったはず。
一人称を僕に変えたのもこの頃です。


同志に出会う

札幌(主にすすきの周辺)では、セクシャルマイノリティの交流会的なイベントが定期的に開催されていました。

イベントごとに参加できる対象や目的が異なり、ゲイやレズビアン限定の交流兼出会いの場もあれば、誰でも参加して雑談ができるカフェイベントもありました。

その中に、FTMもしくはFTXの若者限定の交流会(現在は終了しています)があったので行ってみることに。

イベントの内容は、お菓子や飲み物を頂きながら参加者の生い立ちの話を聞いたり、悩みを相談したり情報交換をするというもの。
これは、一人で悩んで心が荒んでいた僕には打ってつけでした。

他の参加者と仲良くなったということもあり、気づけば僕はこのイベントに毎回参加していました。
このイベントに参加するうちに知識が付き、僕が他人に恋愛感情を持たないAセクシュアルであるということもわかりました。


FTM、FTXと一口に言っても、いろいろな人がいます。
・ホルモン治療をしている(したい)FTM
・ホルモン治療だけでなく、手術・戸籍変更まで済ませたFTM
・身体的な治療をせずに男性として生きているFTM
・FTMのゲイ
・男性的、または中性的なファッションをするFTX
・女性的なファッションをするFTX

さらに、「FTXで男性ホルモン治療する人も結構いるよ!」という話を複数人から聞き、強い衝撃を受けました。
男性ホルモン治療はFTMのための治療だし、FTMしか受けられないと思っていたからです。というよりも、Xジェンダーがホルモン治療を受けるという発想がありませんでした。


これをきっかけに、僕はホルモン治療について考え始めました。


まだ続きますが、長くなったのでこの辺で区切ります。

続きはこちら。


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