【深夜のショート・ショート】メイと煙の街
このショート・ショートは、
トヨタ理のXにて【毎週月~金、深夜0時】に投稿している
深夜のショート・ショート群像劇「今日、きみがいい夢を見られますように。」の一編をまとめた記事です。
##1
「ハッピーハロウィン!」
デビルやゾンビ、ゴースト。
お菓子を欲しがる可愛らしいお化け達がそろそろ家にやって来る頃だ。
クッキーを準備する私をじっと見る娘の姿に、ふと幼い頃の思い出が蘇る。
昨年の今日、亡くなったグランマ。
彼女が私によく聞かせてくれた昔話を――。
##2
昔々のハロウィンの夜。
メイという女の子が迷子になった。
白い煙に巻かれ、メイが迷い込んだのは不思議な街。
狼頭の大男。
全身包帯のミイラ。
ホネホネのスケルトン――。
ホンモノのお化けだ!
驚いてメイが悲鳴を上げると、お化け達は怒って叫んだ。
「外れ者だ! 捕まえろ!」
##3
追っ手から逃げた先で辿り着いたのは大きなお城の前の湖。
しくしく泣いていると「キミ大丈夫?」と声をかけられた。
顔は男の子。
けど髪と体が雲みたいにもこもこなお化け。
「あなたはだあれ?」
「この街の王さ。キミはヒトだね。帰り道をおしえてあげる」
雲の王はメイの手を引いて歩き出した。
##4
雲の王はメイに教えてくれた。
街の皆は欠けている。
だからヒトを恐れるのだと。
森の前に着くと王はメイの背を押した。
「ここをまっすぐだよ、さあ」
「あなたは?」
「僕は欠け者だから」
もうバイバイ? そうだわ!
自分の首飾りを王にかけると、王は「ありがとう」と初めて笑った。
##5
そうして家に帰れたメイが、再び煙の街に行く事は叶わなかった。
グランマになり、命の灯火が消える最期のその時まで――。
「ママ、お話きかせて」
宴が終わりベッドでせがむ娘に、私は語る。
「彼に会いたい」
そう何度も願っていたメイの夢を。
いつか誰かが、彼女の思いを運んでくれると信じて。
(終)
補足
きみ夢のショート・ショートは、基本的に完全な新規書き下ろしですが、今回のお話はこちらの作品を元に執筆しています。
(トヨタ作のノベルゲーム。ショート・ショート自体は書き下ろしです)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また、これまでの作品は、こちらのマガジンにまとめています。
また、最新作は【毎週月~金、深夜0時】X(旧Twitter)にて連載中です。
ぜひ、あわせてお楽しみ下さい。
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