空の青さを知っているか、波の音は聞こえるか 後編(4) テキスト版
はじめに
こちらは、創作漫画『空の青さを知っているか、波の音は聞こえるか』の場面解説を交えたテキスト版です。
ツイッターでも同様の内容のもの(画像解説付き)をあげていますが、note版ではテキストも一緒に掲載しています。
お好きな方でお楽しみくださいませ。
なお、前回のお話はこちら。
1ページ目
(前回の後編(3)からのつづきです)
【場面:路地裏。学校の通学路】
雨が降りしきる中、傘をさしながら横並びで路地裏を歩く葵と渚。
(渚の右手には白杖が握られている)
葵「その……ケガとかは大丈夫か?」
渚「うん。包帯取れたしへーき」
葵「心の方は?」
渚「……」
葵の問いかけに渚は少し黙り込む。
地面を確かめながら歩く渚の視界は、そのほとんどが曇り空に隠されてしまい、わずかに路面の状態を確認できる程度。
少しの間をおいて、渚は口を開いた。
渚「なーんかさ、見えなくてつらいとか悲しいとかあんまないんだ。
あ、でも病院で学校とか家のストレスが原因って言われたの、あの時はムカついたなー」
そう言って苦笑いする渚の様子を心配げに見つめる葵。
葵「病名も何も分かんないからって、こっちの心まで勝手に決めつけて。
マジ笑える……」
2ページ
不意に溢れた渚の本音に、葵が思わず「渚!」と名前を呼ぶが、
「なーんてね。ごめんやっぱ今のナシ」
と渚に言葉を遮られてしまう。
渚「それより急がなきゃ。また遅刻して宇治ちゃんに怒られんのヤダし」
引き止める間も無く一人でどんどんと先を行ってしまう渚。
呆然と立ち尽くしながら葵が一人呟く。
葵「……笑えるってなんだよ……なんも笑えねえだろが。渚……」
葵が傍にいない事に気が付かないまま、渚は一人で先を行ってしまう。
やむことのない雨が、薄暗く湿った路地裏に振り続けるのであった。
3ページ目
【場面: 1年4組】
(ひなたのモノローグと回想)
朝の教室。
昨日と同じように白杖を持って教室に入ってくる渚と、その渚を見守りながら入る葵、そして二人を出迎える美桜。
ひなた「渚は、今日も学校に来た」
お昼。
自分の席に座っている渚に、ひなたが人差し指で渚の右腕をちょんと触る。その右手にはお弁当箱の入ったトートバッグが。
ひなた「白い杖があること以外は、いつもと変わらない様子で。
まるで何もなかったみたいに。でもーー」
いつものように、渚の机でお昼を食べる渚とひなた。
お互いスマホは使わず、渚はパンを、ひなたは箸でお弁当を黙々と食べている。
ひなた「その日から私たちの言葉は、消えてしまった」
4ページ目
(3ページ目に引き続きひなたのモノローグ)
ひなた「だれも何もできないまま、ただ一日が過ぎていく」
ホームルーム。
「では、白高祭の出し物決めます。意見ある人は挙手してくださーい」
と学級委員が教室の黒板の前に立ち、文化祭の出店の意見を募る。
渚はその間、必死にスマホの※拡大鏡を使いながら黒板の文字を拡大させて必死に読み取ろうとしていたが、やはり曇り空に邪魔をされて非常に読みづらい状態。
ひなた「ずっとこのまま、私たちはーー」
頬を右手にあずけて物憂げに考え事をしているひなたと、拡大鏡で撮った文字を必死で見ている渚。
そんな渚を隣の席の美桜が心配げに見つめている。
ひなた「言葉を交わせないまま、過ごしていくのかな」
ふっと、渚がスマホから目を離し窓を見る。
ねずみ色の曇天が、教室の窓を支配したかのように重く垂れ込めていた。
【後編(4)終わり。次回投稿につづく】
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