【深夜のショート・ショート】おやすみ、ブルー
このショート・ショートは、
トヨタ理のXにて【毎週月~金、深夜0時】に投稿している
深夜のショート・ショート群像劇「今日、きみがいい夢を見られますように。」の一編をまとめた記事です。
##1
胸が苦しくなって、また目がさめた。
時刻は深夜の十二時。九時から布団に潜って何度目だろう。
一ヶ月前に、新卒入社した会社を辞めた。
夏に食欲がなくなり、眠れなくなって、とうとう外出もできなくなった。
安泰が約束された切符を失って当たり前の事すらできない今の私に、価値なんてない。
##2
死んでしまおう。
翌日の深夜、ふっとそう決めて真っ先に浮かんだのは、かつての親友だった。
一年前に大喧嘩をして以来、一度も会っていない。
どうせ死ぬんだ。
不思議とためらいはなかった。
電話をかけて七回目のコールの後、あの気怠げな声が聞こえた。
「はい、樺沢ですけど」
##3
一言、いってやる。
そう決めたのに。
無愛想なムカつく声を聞いた途端、急に涙が溢れ出してしまった。
「アンタ、桜木?」
焦る樺沢に嗚咽で何も返せない。
「いま家? 前と同じ所?」
何とか「うん」と答えると、樺沢はすぐに「家行く。待ってな」と電話を切った。
##4
樺沢は本当に家にやってきた。
「死人顔だ」笑ってベッドに座り込んだ。
「大学中退すんなよ。樺沢のせいで会社辞めて、私……」
酷い言い掛かりだ。
でも樺沢は怒らなかった。
「一回寝な。いてやる」
ただ頭を撫でられただけで。
心地良い眠気がじんわりと体中に広がった。
##5
目が覚めた時、樺沢はいなかった。
テーブルの上には、目玉焼きトーストと走り書きのメモ。
『明日来る。適当に生きろ』
トーストをひとかじりして、味がした。
おいしくて、手が止まらなかった。
今日は、眠れるかな。
カーテンの隙間から差す朝の光に、涙が溢れた。
(終)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
これまでの作品は、こちらのマガジンにまとめています。
また、最新作は【毎週月~金、深夜0時】X(旧Twitter)にて連載中です。
ぜひ、あわせてお楽しみ下さい。
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