父の死により姉妹の運命が逆転 4
私の代わりに、遠くの村へ養子縁組で行った妹のその後の人生を聞いたのは、後年私が結婚した頃だった。それまで、奉公先から実家に戻ったことは一度もなく、ご縁で奉公先の旦那様の親戚だった主人と結婚が決まり、一度実家に戻り、結婚準備をしていた頃だったと思う。
何年ぶりかで、母と暮らせた期間はとても幸せだった。ただ、その時に妹のことを聞いて、ビックリしたのだった。
妹が養子縁組を組んだ子どものいない夫婦は、実際に行ってみたら、裕福でもなく、下働きをさせたいために妹を養女でもらったのだったらしい。裕福な生活を夢見て、養子縁組に応じた妹は、さぞビックリして悲しんだことだろう。けれど、たぶん自分はお金で取引されたことを知ったので、今更実家に戻ることはできなくて、自分の人生をあきらめて、その家の家事全般をやるしかなかった。
その家で暮らし始めて数年後、養母が突然病気で亡くなってしまった。養父はしばらく立ち直れない状態だったが、ある日妹に性的接触を求めてきた。養父はその時40代だったので、もう大人になりつつあった妹を、襲ってきたのだろう。
今まで養父として生活してきた妹にとって、それは青天の霹靂の出来事だった。暴力的に毎日性交渉を求められた妹は、耐えられなくなって、ある日その家から飛び出して、着の身着のまま実家に戻ったのだった。
母は突然帰ってきた妹の話を聞いて、ひどく嘆き悲しんだ。今と違って双方連絡がとれない時代のことだ。ただ、逃げ出してきた妹を実家においておけば、養父が連れ戻しにくることは間違いない。
母は、母方の遠い親戚の住む県外に妹を連れていき、そこで奉公しながら暮らす算段を見つけ、妹をかくまった。養父は当然妹を連れ戻しにきたが、母は頑として、知らぬ存ぜぬを通した。
それから数年後、妹は親戚と暮らしていた近所の男性とご縁ができ、結婚したが、夫婦関係は上手くいかなかったらしい。養父とのあまりに壮絶な関係が、ずっと尾を引いており、夜の夫婦生活に溝ができ、離婚せざる終えなかったとのこと。その後も病気で入退院が続いたりして、結局早くに亡くなってしまった。
私と妹の数奇な運命。私の身代わりになって人生を謳歌できなかった妹の分も生きることができている90歳を超えた今、本当に妹には感謝したいと思うのである・・・