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初夏のSF短編まつり

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初夏のSF短編まつりに参加いただいた作品をまとめました。 お題は 「植物のある風景」 もしくは 「サイバーパンク」です。
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2022年5月の記事一覧

「アンダーグラウンド・ガールズ・ラフィング・エキセントリック・ジョーク」 両目洞窟人間

「アンダーグラウンド・ガールズ・ラフィング・エキセントリック・ジョーク」 両目洞窟人間

 私が産まれたときには人工知能搭載ロボットが平気で漫才をやるどころか、どっかんどっかん笑いを取って、人間の出る幕無し。お笑いに限らずだけど。
 だいぶ昔に地球は荒廃。人類はロボットと猫をつれて宇宙と地下に移住。
 偉い人とお金持ちと高性能ロボットは宇宙へ。
 貧乏人とおんぼろロボットと猫は地下へ。
 超格差世界!
 それでも人類は最初、地球を再建するんだ!と頑張ってたらしい。でも早々に心が折れ、宇

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「もしも魔法が使えたなら」 橘省吾

「もしも魔法が使えたなら」 橘省吾

 5月の終わり。本格的な夏を控えた日曜日の午後二時。季節外れの陽気を避けて、僕は公園の大きな木の木陰で涼をとっていた。樹齢1000年を超えているといわれるその巨木は、まだ中学生の僕を直射日光から守るのに十分な木陰を提供してくれる。
 サッと一陣の風が吹き抜け、僕の体表から水分が蒸発していった。とても心地がいい。
 その日は慣れない早起きをしたものだから、昼食の後のこの時間、強い睡魔が襲ってきていた

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「ユズル」 スナメリ

「ユズル」 スナメリ

 その暗い太陽、『プロキシマ』については、地球の近くにあって古くから知られているという以上に特に取り立てて言うべきことはなかった。僕が辺境惑星の文化を集めて回る研究者じゃなかったら、そこへ行こうとは思わなかったろう。
だからその小さく地味な恒星の惑星、『プロキシマb』について興味を持っている人間なんか、いまや誰もいなかった。僕はその星について資料をひっかきまわして調べたが、最新の記述ですら千年前の

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「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

 ねこの友達の宮本さんと道でばったり会ったら、彼女の腕の中には植木鉢が1つ。
「春にゃので花を買うことにしましたにゃ~」と宮本さんは言うので、私は「いいじゃんいいじゃん」と言って別れてから数週間後、超慌てた様子の宮本さんから電話。
「鈴木さん!助けてください!フリージやん!フリージやんが!!」
 フリージやん、ってのがなんのことかわからなかったけども、とにかく超やばいって思った私は自転車でしゃーっ

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「クオン」 これ

「クオン」 これ

 ああ、あなたって本当に素敵。焼け跡に咲く一輪の花みたい。もしくはアヒルの群れに紛れた白鳥。どんな美辞麗句を並べても、あなたの美しさは表しきれない。どうして、そんな純粋な目で見てくるの。崩れ落ちてしまいそう。昔の人が「愛は気づけばそこにあるもの」って言ってたけど、まさにそうね。生まれたときから一緒にいるみたい。心の一部なんて表現じゃとても収まらない。あなたは心そのもの。愛しいと思う心そのものだわ。

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「ブルガリでお茶を」 はまりー

「ブルガリでお茶を」 はまりー

 合格祝いにご馳走するよ、何が食べたい、そう訊かれたので石、と答えた。電話の向こうで佐和子が爆笑する。あんた、石て、わかんねーよ、いや、わかるけれども。佐和子とは中学からの腐れ縁でつきあった男のホクロの位置まで知っている。互いのことが分かりすぎてもう喧嘩もしなくなった。案の定、次の日新宿のごちゃごちゃした通りに呼び出され居酒屋のテーブルに付くと、わたしの食べたかったものが運ばれてきた。安っぽい皿に

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