人の苦しみ、自分の物差し(前編)
今回は長くなりそうなので2回に分けようかな。笑
10月から始まるリリースの最初を飾ったのは
「針よ墜とせぬ、暮夜の息」。
これが前回登場したカメラマンの福田さんとの最初の作品となる。
音源デモが上がりMVの撮影をそろそろ企画しなければ、という頃。
元々は曲調的にもアニメーションが合うんじゃないかとメンバーのマサとも話していた。
割愛するが色々な事情でアニメーションは土壇場で頓挫した。笑
急遽リアルで撮らなきゃいけないとなってしまい、
しかし我々のバンドは、先にMVの構想ありきで曲を作ったりするのだが
今回のケースはそれに近いような形でできた曲だったから楽曲ができた今更MV・楽曲の根幹ともなる物語のプロットも変えられんよなとマサと話していたところだった。
キャストもロケ地も決まってない、時間もない、お金もない。
とりあえず福田さんがカメラを構えてくれる事だけは決まっていた。
『さて、どうしたものか』
と頭を抱えては視線の先に映るこの曲のプロットだけが静かに僕を見つめていた。
8月に入った頃、もう納期まで1ヶ月といった具合でいよいよ本気で動きださなければまずいところまで来ていた。
公募型でキャストを募った事もあったが、
やはり文面だけだとお互いの欲するイメージに齟齬が生じたからか、僕が今回思い描いている人物像を持つ方に出会う事はできなかった。
正直、自分1人で抱えるのがもう限界だったので
2019年8月にリリースした『夢花火』のMVで
一緒になった俳優山田ジャンゴに相談する事にした。
*彼とはその撮影以後意気投合し、自主制作でコンセプトムービーや1分間のショートムービーなどを撮ったりしていたから仲だけは良い。
その日も本当は新たに制作するショートムービーの打ち合わせをする予定だった。
『俺キャスト探しますよ』
現状を話した途端、彼は即座にこう言った。
ツテもあるし、出来上がる作品を見てみたいからと。
渋谷のプロントでパスタを頬張りながら話したのを覚えてる。
あの日ほど助かったことはないと言っても過言ではなかったほど感謝してもしきれない。
そこからは正直とんとん拍子すぎて
悩んでいたことが嘘かのように決まっていった。
一度一緒にMVを作ってるからか、
僕の構想をどんどん解釈していき、時には疑問を投げかけてくれて、提案してくれた。
多分監督の肌も人それぞれで、自分で一括でやってしまう人もいると思うし自分の構想に他から提案されることを毛嫌いする人もいるかもしれないが
僕はそうではなかった。
信頼する仲間と無邪気に語り合う中で生まれる構想や理想が大好きだった。
ジャンゴもそんな仲間の1人だ。
さて、そうこうしてるうちにキャストが決まる。
イトウハルヒさんと愛鈴さんだ。
御二方とも僕がイメージする人物像にぴったりだった。
思い返せば今まで自分やメンバーのツテでしか作品を作ってこなかったし、ほとんど僕がやってたのもあって香盤表やら絵コンテやら企画書やらをちゃんと作ったことがなかった。
しかし今回はそれがいる。
何故なら初めてご一緒する方が多いから。
出来上がったデモ曲とプロット、構想案をキャストさんに渡す。
この瞬間が1番ドキドキする。
自分たちが伝えたい想い、かっこいいと思う曲に
共感してもらえるかどうか、演じてくれるキャストさんにはダイレクトに伝わらなければならないからだ。
それに、今回は過激なシーンが入る。
後述するがただ過激にしたいわけではなく、
ちゃんとした別の意図がそこにはあり、その微妙なニュアンスを感じ取ってくれるか。
そこが肝だった。
『テーマと歌詞、最高です』
『めちゃくちゃいいですね!是非やりたいです』
緊張が晴れる。
『よし、とりあえず第一段階はクリアした、、、』
喜びよりも安堵の方が強かったのを覚えてる。
ジャンゴは電話越しに無邪気な声で喜んでいる。
本当に可愛い奴だ。
ついにキャストも決まり、ロケ地も決まり(この辺は福田さんの力を借りてケツを叩かれながらせかせか決めた。笑)、
福田さんを助手する木部くんという新しい仲間ともご対面。
木部くん。
彼もまたアツくてそれでいて優しい男だ。
彼だけで一つ記事が書けてしまうくらいツッコミどころ満載の人間。
どうしてこうも魅力的な人間がこんな短期間でたくさん集まって、僕らに力を貸してくれるのだろうか。
そしてみんな優しい。これ大事。
少し話は逸れるが
僕は何かにつけて怒鳴る人が嫌いで、
人とコミュニケーションを取るのにわざわざ怒鳴る必要などないと思っているし、ただただその行為は相手を傷つけるだけだと思っている。
一点に集中して物を作らなければならないという緊迫した環境だからというのも分からないでもない。
ただ、何度か怒号が飛び交う現場を目にした事もあって本当に心から嫌になってしまった経験がある。
そして何より、怒鳴られることに恐怖を覚えてしまって満足したパフォーマンスが出せない。
それで潰れていってしまった人も過去に見ている。
悔しかった。
あの時自分が現場責任者なら、絶対にこんな思いはさせなかった。そう思った。
もとい、そんなこんなで集まった素敵な仲間たちと始まる撮影。
ちなみに納期もお金もほぼないので、
1日で撮り切らなければならないし外ロケもある。
という事は、
雨が降ったら終わり。
こうして僕は自身が生まれた星の下と必然的に対峙していくことになる。
何を隠そう、僕は根っからの雨男だった。
もちろん、8月下旬のこの時期、晴れの日が続いていたがドンピシャでその日は天気が悪い予報だった。
雨さえ降らなければ、演出的に晴れである必要はないから、、、
と藁にもすがる思いで撮影の日を迎えた。
朝7時ごろだったか、
渋谷のとある場所で全員集合し現場へ向かう。
が、すでに曇天。
外ロケはスケジュール的にちょうどお昼頃だったので、この後も雨降らないでくれよ、と願いながら最初の現場へと着いた。
ここは前回紹介したカメラマンのMONAがよく関わっているお店-Shishars-で、アー写の際にもお借りした場所だった。
↑こちらのシーン。
※お店リンク: https://instagram.com/shishars?igshid=poim5rux5yck
おかげさまで、禍々しくも、妖艶なシーンを撮影することができた。
さて、撮影も終え次の現場、いよいよ外ロケへと向かおうとしたその時、
やってきた。
けたたましい音と共に落ちてくる水滴。
雨だ。
終わった。
そう思った。
ひとまず、次の現場へ移動しよう、ということになり移動。
すると、雨が止んだ。
雨が止んだのだ。
今のうちだ!となんとか撮影を開始。
1時間で撮り切ったのを覚えてる。
さて次のロケ地へ。今度は主人公の家。既に3カ所目。時間は14時を回っていた頃だったか。
時間もないのにどんだけロケ地1日に詰め込むんだ!と思ったそこのあなたに言いたい。
このロケ地が最後ではない。
驚愕しただろう。
そう、3カ所目を終えたとしても最後にもう一つロケ地が残っていた。
え、この日何時までやるの?と思うだろう。
この日は解散予定時刻が0時を回っていたと思う。
朝7時に集まったのに。
撮るねえ〜。
もとい、ここのロケーションではかなり撮影しなければならないカットも多く、またここまで多くの人を導く事も初めてだったので、
正直かなり苦戦した。
今までで一番苦戦した。
今のところこのMVの撮影が、監督としての技量を
底上げしてくれたと思う。
(というか今までができてなかったのかもしれない。)
ここでは、
主人公と相手の女性が共にした夜。迎えた朝を
撮影しなければならず、
特に一番大切にしたいシーンでもあった。
また、女性同士の絡みのシーンもどう表現すれば良いか頭を悩ませたところでもあった。
↑ちなみに冒頭シーンの絵コンテ。
絵は褒められたものじゃないが、MVを見てくれた人にはきっとどのシーンか伝わるとは思う。
結果、前述した絡みのシーンは1番サビに当たる部分に当てはめることにした。
彼女はここで感じた不安とも高揚とも取れる感情を最後に、苦しみの果てへと堕ちてゆく事になるからだ。
だからこそここまでは綺麗に、そして美しく撮りたかった。
2人の距離がぐっと縮まる。
主人公の心の鍵が外れドアが開く。
そして、守っていた境界線を越える。
手を握りあうこのカットは一番こだわったところでもある。
上記のようなニュアンスを、この手のシーンだけで表現したかった。
話を制作の裏側に戻す。
23時をすぎた頃、このロケーションでの撮影が終わり、遂に最後のロケ地へ。
ここにきてようやく最後のロケ地へ向かうことができる。
長かった撮影の旅もそろそろ終わりを迎えようとしていた。
雨も止み、夜中東京駅周辺では人の流れもなく、
ただ静寂だけが時を刻む。
心身の疲労も既に限界がきていたが、
ラスト2カット。
これさえ撮れば、皆解散。
この怒涛のスケジュールを乗り越えてきた僕達に
もう怖いものはなかった。
とにかく無事に、最後まで撮り切る。
それだけを思いラストシーンへ。
ここではAメロでの出会いの場から抜け出した
彼女達が夜の街から主人公の家へと移るまでのシーンを撮る。
結果としては、夜の街へと抜け出すシーンはカットになったが、ここではこのMVで一番"ベタ"なシーンを撮った。
それがこれ。
ベンチに座る彼女達が、片耳ずつ音楽を聴くシーン。
今や有線のイヤホンだからこそ距離が近くなるような甘酸っぱい経験なんてないんじゃないだろうか。
みんなワイヤレスだもんね。
時代にそぐわない?そうかもしれない。
でもここはあえて有線にした。
誰にも譲らないと決めていた境界線を、譲りたくなる気持ちや自分から越えようとする意思を
目に見えるカタチで、
相手との"繋がりを受け入れる"という意味で表現したかったから。
主人公は、彼女に渡された片方のイヤホンを受け入れ、自分の耳へと少し嬉しそうにはめる。
そうして自ら他者との繋がりを受け入れてゆく。
そしてようやくクランクアップ。
全てが終わった。
遂に終わった。
もう何時だったかも覚えてない。笑
電車も無いからレンタルした車で各々の最寄りまで送り家へと帰った。
こうして作り上げた
『針よ墜とせぬ、暮夜の息』MV。
人の苦しみ、自分の物差し。
そこについてはまた、後日にでも語ろうか。
イトウハルヒさん
https://instagram.com/as_sakana.dot?igshid=qrzcvy82der
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