【ショートショート】 路地裏クジラ
「俺は、久慈寺さんに告白しようと思っている」
俺の言葉に、幼馴染の現瀬実央が返事をする。
「アンタ、勝算のない告白はしないって言ってたじゃない」
「ああ。もちろんしない。だが、あるのだよ。百パーセントにする方法が!」
「だいたい想像つくけど……なに?」
「『路地裏クジラ』というウワサを聞いたことがあるか?」
「はぁ……。出た、市哉のオカルト話……」
商店街にある路地裏の先に、誰も寄り付かない空き地があるらしい。
そこには、意味ありげに佇む柱時計がある。
その時計の前に立ち、針の指し示す『九時』を『全裸』であらわしながら、願いを叫ぶ。
すると、見事願いが叶うらしい。
『九時』と『全裸』で、クジラということらしい。
「というわけだ。確かにリスクは大きいかもしれないが、それ以上のリターンがあるじゃないか!!」
「……市哉って、テストの成績はトップだけど、呆れるほどバカだよね」
「せいぜいそうやって、バカにしていればいいさ。明日の今頃には、告白が成功していることだろう」
「……応援してるよ、バカ市哉」
※
空き地に着くやいなや、俺はすっぽんぽんになった。準備完了!
左手を水平に伸ばし!
右手を天へと掲げ!
そして、願いを叫ぶ!
「久慈寺さんと付きあ——」
「ちょっとそこの君、未成年だよね。そこの交番まで着いてきなさい」
「……はい」
※
次の日、学校に行くと、俺がお巡りさんのお世話になったことがウワサになっていた。
だがしかし、問題はそこじゃない。
「願いを言いそこねた!!」
「そこじゃないでしょ。だいたい、ウワサ話になってる場所を巡回しないわけじゃない。そら捕まるわよ」
「実央は現実的だな。ロマンチックのカケラも感じない」
「全裸になったやつに言われたくないわよ」
俺たちがそんな話をしていると、久慈寺さんが話しかけてきた。
「あの……都君。補導されたって聞いたけど、大丈夫?何かあるなら、相談乗るよ」
これはお近づきのチャンス到来だ!!
「うぉぉぉぉぉぉぉ——ッ!!」
俺は嬉しさのあまり吠えた。
クジラだけに。
(了)
【登場人物】
※都 市哉(みやこ いちや)
※現瀬 実央(うつつせ みお)
※久慈寺 未空(くじでら みそら)