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【ショートショート】 路地裏クジラ

「俺は、久慈寺さんに告白しようと思っている」

 俺の言葉に、幼馴染の現瀬実央が返事をする。

「アンタ、勝算のない告白はしないって言ってたじゃない」

「ああ。もちろんしない。だが、あるのだよ。百パーセントにする方法が!」

「だいたい想像つくけど……なに?」

「『路地裏クジラ』というウワサを聞いたことがあるか?」

「はぁ……。出た、市哉のオカルト話……」

 商店街にある路地裏の先に、誰も寄り付かない空き地があるらしい。
 そこには、意味ありげに佇む柱時計がある。
 その時計の前に立ち、針の指し示す『九時』を『全裸』であらわしながら、願いを叫ぶ。
 すると、見事願いが叶うらしい。
『九時』と『全裸』で、クジラということらしい。

「というわけだ。確かにリスクは大きいかもしれないが、それ以上のリターンがあるじゃないか!!」

「……市哉って、テストの成績はトップだけど、呆れるほどバカだよね」

「せいぜいそうやって、バカにしていればいいさ。明日の今頃には、告白が成功していることだろう」

「……応援してるよ、バカ市哉」

 空き地に着くやいなや、俺はすっぽんぽんになった。準備完了!
 左手を水平に伸ばし!
 右手を天へと掲げ!
 そして、願いを叫ぶ!

「久慈寺さんと付きあ——」

「ちょっとそこの君、未成年だよね。そこの交番まで着いてきなさい」

「……はい」

 次の日、学校に行くと、俺がお巡りさんのお世話になったことがウワサになっていた。
 だがしかし、問題はそこじゃない。

「願いを言いそこねた!!」

「そこじゃないでしょ。だいたい、ウワサ話になってる場所を巡回しないわけじゃない。そら捕まるわよ」

「実央は現実的だな。ロマンチックのカケラも感じない」

「全裸になったやつに言われたくないわよ」

 俺たちがそんな話をしていると、久慈寺さんが話しかけてきた。

「あの……都君。補導されたって聞いたけど、大丈夫?何かあるなら、相談乗るよ」

 これはお近づきのチャンス到来だ!!

「うぉぉぉぉぉぉぉ——ッ!!」

 俺は嬉しさのあまり吠えた。
 クジラだけに。

(了)

【登場人物】
※都 市哉(みやこ いちや)
※現瀬 実央(うつつせ みお)
※久慈寺 未空(くじでら みそら)

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