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スモールワールド

自宅の近くの地下街に、土日は空いてない食堂街がある。
お腹がすごく減っている時は町中華。
あまり減っていない時は蕎麦屋ミニ定食。お決まりだ。

その中に、たまに行くカウンターだけのスパゲティー屋がある。
パスタではなくスパゲッティー。味は4種類あるが、ナポリタンが1番うまい。
調理をしているベレー帽をかぶった男性が、客に背中を向いて無口にフライパンを振っている。
接客する二人の女性スタッフは、料理を出したり両替や皿を洗ったりしている。
ベレー帽はいつもマスクをしている。

昼しか開いていない店は、1日で一体何食出しているんだろう。
12時過ぎはいつもサラリーマンで行列なので、1時20分ごろ僕は行く。
1時30分だと売り切れている可能性が高いからだ。
今日も1時20分に行く。
数人の列、すぐに座れた。

ベレー帽は、僕に気づくと帰り際、声を出してお礼を言ってくれる。
僕は軽く会釈するだけだ。他の客には一切しない。いつも不思議に思う。
どうして僕だけ?
僕のことを知っているのかな?
ベレー帽の名前を僕は知らない。彼も僕の名前は知らないはずだ。

今日、食べ終わると、ベレー帽は僕に気づいた。その途端大きな声で、「ありがとうございました」と言ってくれる。
いつも僕は軽く会釈するだけだ。
食べ終わり、食品スーパーへと向かう。
牛乳やら何やらを買った帰り、またスパゲティー屋の前を通りかかる。
店じまいの準備をしている。
またベレー帽が僕に「ありがとうございました」と大きな声で言う。
今度は、「いつもありがとう」って答えられた。
僕は世間話がどうも苦手だ。

僕の知人の知り合いか?
前住んでいた家のご近所さん?
以前から知っているのか?
どこかで会っていたのか?
どこかよく行く別の店で働いてたのか?
皆スーツなのだが、僕だけジャージや紫色のシャツを着ているせいで目立つからか?
誰かの兄弟?

いつものバーテンダー氏から聞いた。
先日、アメリカから来た客同士が、たまたま自宅が近所だったらしい。
そういう時に、「オー、スモールワールド!」と言っていたそうだ。
世間は狭い。
そういう意味らしい。

明日の昼食は、新しいスパゲッティ屋を探そう。
新しいベレー帽に出逢うかもしれない。
その時は、僕は心の中で「オー、ワンダフルワールド」を歌おう。

僕の世界は、小さすぎるのかもしれない。


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