半分
半分の月が出ていた。肉眼では、はっきり見えるのにスマホで撮ると上手く写らない。右側が光っているのを上弦の月と言うらしい。これから満月になっていくとの事。
彼女は、仕事を終えて大学に行っていた。法学部の学生と弁護士の先生を交えて離婚についてディスカッションしたらしい。
嬉々として財産分与の話をしだした。
ローンが残っているマンションも、年金も退職金も、財産はすべて折半とのこと。
僕は、経験者だから既に知っていた。
コロナ禍で別居し、しばらくビジネスホテルに泊まっていた。一カ月ほど泊まっていたが、コロナ患者の待機所になったので、追い出された。別のホテルに移り、彼女と一緒にマンション探していた。彼女が部屋に遊びに来ようとしたが、カバに似た支配人に止められたりした。
離婚調停の申出書が弁護士名義で、会社に突然送られてきた。僕は居場所を教えていなかった。家庭裁判所に4度ほど行ったが、男性の調停員はあくまで冷静で、女性は僕に少し同情し、何故か僕の日本経済の話に耳を傾けていた。自宅のローンが800万円ほど残っていたが、それを相殺して、名義を書き換えて離婚調停は終わった。
ちょうど、結婚した時の年齢と同じ年月だけ一緒に暮らしたことになる。
程なくして娘は元嫁の旧姓に変えた。
あれから幾度、見たことだろうか。
都会では大きな虹と満月だけが、僕の記憶を想起させる。
肌寒くなった夜のベランダで、なぜだか変な汗をかいている。
ここから、月は見えない。