詩 きみはとうめい
つめたい海の底で
きみが息を潜めて
からだを小さくしている
きみを傷つける者の怒号が響き
指先が震えているのが見えた
溜めた息を少しずつ吐き出す唇から
泡がうまれては昇っていく
きみはたぶん なにかを
伝えようとしている
手を伸ばせば届くところで泳いでいるくらげや
海のうえにいる老いさらばえた漁師に
でもきみの声は泡になってしまって
誰にもきこえない
気づかれもしない
息を吐ききったきみは
そろそろ選択を迫られる
でもきみのからだが生きるも死ぬも
きみの苦しみは
水と空気に溶けているから
いつまでもめぐってゆく
わたしに届くころには
とうめいな養分になって
きみの美しいところだけが残るだろう