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部分で引き継ぐ

ある日、母から私と妹のグループLINEに写真が送られてきた。
私はそれを見てひどく取り乱した。
祖母の住んでいた団地の部屋が空っぽになった写真だった。
空っぽ。何もない。ばあちゃんが死んじゃったみたいだ!
気持ちが乱れたまま、そう返信した。
母からはすぐに、「そんなことない!」と返ってきた。

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11月の初め頃、ばあちゃんの団地を片付けに名古屋に行った。正確には、何かほしいものがあったら持ってってと母に言われたから見に行ったのだった。
祖母は老人ホームに住んでおり、母と伯母は自分達の動けるうちにと計画的に団地の片付けをしていた。
母達はついに先日、祖母に話し、部屋を引き払う日を決め、ここまで着々と進めてきたのだった。
寂しいことだが、止めることも、口を挟むこともできない。
部屋を見渡してみても、ほしいものは正直見つからなかった。あらかじめ母には、扇風機とストーブとカーテンがあるよと提案されていて、その他にというと特にないのだった。
亡くなった祖父が撮っていた写真を何枚か選び、もらうことにした。

もう来ることがなくなるのかと思うと寂しかったが、とりあえず記念撮影して、ほとんど実感がないまま部屋を後にした。

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写真の中の何もない部屋はまるで知らない場所のようだった。部屋は黙っていて、最初から何もなかったかのように見えた。ばあちゃんが死んだら本当にそうなるんだと思ったら悲しくなった。

母の「そんなことない!」に何も返せないでいると、妹が写真を送ってきた。それは、この前みんなで行った時のものだった。妹の子どもと私がしゃべっている風景。リラックスしたとてもいい写真だった。
たしかにここに居たし、部屋はあったし、みんなで訪ねていったなと思った。少しだけ落ち着いた。

数日後、母からカーテンが届いた。祖母の団地の部屋にかかっていた厚手のいわゆる普通のカーテンだ。
私は自分の住んでいる部屋の窓にに好きな布をぶら下げているだけなので、かわいいけど、それでは夏の日差しと冬の冷気を遮ることができない。せっかくだから、冬に備えて付け替えることにした。オーソドックスな葉っぱの柄のカーテンは普通で良くも悪くもないと思っていたが、かけてみると部屋を寝室らしく落ち着いたものにした。

送られてきた段ボールからカーテンを取り出したら、下の方から祖父が撮った写真が出てきた。
この部屋のどこに飾ったらいいかはわからないけど、外国で撮ってきた写真らしくてなかなかいいねと思った。

じいちゃんの写真

部屋ごと残すなんて無理で、部分で引き継いでいくしかないのだが、それでもいいのかもしれないと少しだけ思った。

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