【掌編小説】なむきち
「ただいまー!」
「おかえり。遅かったね」
「いやー、渋滞に巻き込まれたんだよ」
「そうか、それはお疲れさんだね」
「あ、洗濯回してくれてたんだ。ありがとう」
「良いよ。でも靴下一足たりないんだ」
「あぁ、それなむきちのせいじゃない?」
「ただいま!」
「ワン!ワン!」
「ほらほら、足拭くよ」
「ワン!」
「よし、これで大丈夫。仏壇拝むから待っててね」
「おかえり」
「ただいま、今日でもう死んじゃってから丸2年か」
「そうだよ、あっという間だよね。あの日はかわいそうでさ、立ち直れないかと思ったよね」
「じゃあなむきちはどうだったかな」
「さあね」
「ごちそうさま」
「美味しかった?」
「美味しかったよ、でもこれだけ味濃かったかも」
「それやったのなむきちじゃない?」
「あー」
「どうりで濃いわけだ」
「あー、楽しかったね」
「いつも思うけど、この道怖いよね。なんでこの家契約したんだろ。お化け出るんじゃないかと思っちゃう」
「それね。もっと明るい場所通れたらよかったよね」
「後ろ振り返ったら負けゲームしようよ」
「なんか言った?」
「え?なむきちじゃない?」
「ただいま」
「おかえり」
「アレの様子はどう?警察来た?」
「まだだよ」
「ただいま」
「あ、おかえり」
「今なんか喋ってた?」
「え?だってなむきちがさ」
「いや、あのさ、」
「『なむきち』って誰」
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