宇宙への挑戦 夢と悪夢 天才たちの頭脳戦❷
✉️コロリョフが妻に書いた手紙より
「夢、夢。
夢を失った人間は、羽を失った鳥と同じ、そう思わないか?大昔から、人々は青い空を思い描いて生きてきた。今こそ全人類の夢を実現する時だ。」
1957年10月4日、スプートニク1号は打ち上げに成功した。 宇宙から送り出された発信号を人々が無線で聴き、ソ連の名声は一夜にして高まった。
しかし、
コロリョフの名が人々に知られることはなかった。
暗殺を恐れたソ連が、正体を隠すように指示した。
コロリョフは、同志チーフデザイナー氏と呼ばれ、ロシアの宇宙開発を陰から指揮していくことになる。
一方、
アメリカでは、ソ連に遅れをとったことから激しい動揺が走った。
スプートニクショック
フォン・ブラウンも悔しさをあらわにして、上官にこう語った。
🎙️フォン・ブラウンの言葉より
「ソ連がやることはわかっていた。この大混乱を見てください。許可さえ下りれば、私は60日で人工衛星を打ち上げて見せます。」
遅れを挽回するために、1958年にNASAが設立された。目標に掲げたのは有人宇宙飛行だった。
しかし、
同じ頃、ソ連も有人宇宙飛行準備を進めていた。
宇宙船と一緒に生還しなければ成功とは言えなかった。宇宙船の開発を担ったのはもちろんコロリョフだ。コロリョフが最もこだわったのは、自動化だった。
飛行士に頼らず自動的に生還させる仕組みを作った。
先をいったのは、またしてもソ連だった。
1961年4月12日、ボストーク1号打ち上げ。
人類を宇宙に送る夢をコロリョフは、宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンに託した。
成功の確率は50%程度だったと言われている。
午前9時7分地球周回軌道にはいった。
ガガーリンの宇宙に達した時のコメント
「地球上の雲が見えます。細かい雲と積乱雲見えます。美しい実に綺麗です。聞こえてますか?どうぞ!」
ガガーリンは、108分間をかけて地球を一周した。
人類は初めて宇宙から地球を目撃した。
ガガーリンは国民的英雄になった。
しかし、
偉業の立役者コロリョフの存在は国民に知らされず、生涯影の存在であった。
そして、日記も一切残せなかった。
しかし、コロリョフ自身も秘密の存在であることをわきまえていた。
ガガーリンの成功を、西側でも放送されていた。
その苦々しい放送を見守っていた人物がいた。
宇宙開発の推進を公約にあげていた人物、ジョン・F・ケネディ大統領だ。
ケネディ大統領は、先を行くソ連を追い抜くために何をしたらいいかフォン・ブラウンに尋ねた。
フォン・ブラウンはすかさず進言した。
🎙️フォン・ブラウンの言葉より
「月に人を着陸させましょう。他の宇宙計画を全て後回しにしてでも」
🎙️ケネディ大統領の発表
「1960年代のうちに人類を月面に着陸させ、安全に地球まで戻すことをアメリカの目標にすべきだと考える。」
月面計画を目論む、アポロ計画が始動する。
フォン・ブラウンは、史上最大のロケットサターンVを開発。
更に月面着陸船の開発にも着手。
地球の6分の1の重力しかない月で、いかに安定して着陸させるか検討が重ねられた。
最も革新的だったのが、コンピュータの導入だ。
当時、アメリカで生産された集積回路の約60%が使われた。
コンピュータのプログラムを開発したのは、マーガレット・ハミルトン。
28歳で責任者に抜擢されたMIT出身の天才プログラマーだった。
🎙️フォン・ブラウンのコメント
「月面着陸という明確な目標は、磁石のようにさまざまな技術と努力を結集させています。1969年末までに月面着陸を実現できると確信しています。」
着々と準備が進んでいる中、フォン・ブラウンにソ連からニュースが届いた。
ソ連の新聞がある人物の死を報じたのだ。
コロリョフだった。
コロリョフの名が初めて公となり、ソ連の宇宙開発はたった1人の人物が成し遂げてきたことが明らかにされた。
死因は心不全。59歳の若さだった。
ソ連は宇宙開発の英雄を国葬で見送った。
🎙️フォン・ブラウンの言葉より
「なぜ我々がソ連の後塵を排したのか、技術的にも我々にも可能だった。しかし、おそらく我々には、コロリョフのような、強い決意が足りなかったのだ。」
1969年7月、いよいよ人類の歴史に刻まれる日がやってきた。
月面着陸を目指す、アポロ1号の打ち上げ。
世界が固唾を飲んで見守った。
午後1時32分、カウントダウが始まった。フォン・ブラウンは管制室から見守った。
ロケットは38万キロ先の月へと向かった。
そして、月面着陸船イーグルが月へ着陸した。
ついに人類は月に降り立った。
🎙️ニール・アームストロングのコメント
「これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」
あのヴェルヌの小説を読んでから、半世紀がたっていた。
🎙️フォン・ブラウンの言葉より
「子供の頃に夢見たことを一生かけて取り組めた人が、世の中にどれくらいいるだろうか?私は明日死ぬとしても満足してゆくことができる。子供の頃、夢見たことの多くを自分で実用できたのだ。他に望むものは何もない」
そして、今や宇宙は、夢を叶えるところから、ビジネスとして利用する場所となった。
現在、我々の頭上を回る気象衛星は8000機。
宇宙から届く電波は、私たちの生活を支えている。
🎙️150年前宇宙旅行を夢見たジュール・ヴェルヌは、科学の進歩についてこう警告している
「科学の進歩は、一個人、一企業、一国家のものではない。秘密にされることなく、全人類がその恩恵に預かるように努めるべきだ。必要なのは、人類の未来への進歩を確かなものとすることだ。進歩は、真理、正義、美に向かって魂を高めない限り、その名に値しない。」