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縄を薬品に漬けてみた!
まとめると…
全然上手くいかなかった(;ω;)かなしみ、、
擦り鞣しは、縄同士をテンションをかけながら擦り合わせて縄の繊維をぶちぶちして縄を柔らかくする行為だと思っていたので、酸やアルカリに漬けたら代わりになるんじゃない?と始めた実験でした。
でも!そもそも擦り鞣しで縄の強度がそこまで落ちている様子もなく、見た目が綺麗に仕上がった酸処理では強度が落ちすぎるという結果になってしまいました。
しかも、縄というサンプルが特殊ゆえに、本当に縄が柔らかくなっているのかすら(定量的に)検証できていない状態…
かなしい(´・ω・`)
本実験を進める上で、縛楽のたかせ泰之助 氏(HP,X,Fetistodon, note)に多大なるご助力をいただきました(相談に乗ってもらったり、作業してもらったり、何より費用を負担してもらったり)。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
たかせ泰之助 氏のnote記事:
※天然素材ですので、購入元や購入の時期、使用の状況(温度、湿度)など多くの要因によって結果が大きく変動すると考えられます。
あくまで今回の結果は参考程度にお考えください。
本noteは縄の強度について何かを保証するものではありません。
1.背景
1.1緊縛におけるジュートロープ
緊縛で使用されるジュートロープ(以下、縄)は、ユーザーによるさまざまな処理ののちに使用されることが多い(表1.1)。
![](https://assets.st-note.com/img/1720425970623-5rz4Cc0gM2.png?width=1200)
このうち鞣し作業には、以下のような課題がある
鞣し作業にかかる労力が大きい→ex)擦り鞣しで5~10 min/本
鞣す前後での縄の強度(引張強度)及び柔らかさ(剛軟性)の変化が定量的に評価されていない
同じプロトコルを用いていても、ユーザーの違いにより再現性が低い
特に緊縛では受け手の体重を縄で支える場面が存在し、事故防止の観点から縄が一定の引張強度を保有することが必要である。このため、鞣し後の縄の強度を定量的に評価することは重要であると考えられる。
1.2ジュート繊維について
ジュート繊維の成分は以下の通り[1]。
セルロース (58-63%)
ヘミセルロース (21-24%)
リグニン (12-14%)
1.3ジュート繊維の化学処理
煮沸すると、繊維束が膨潤して部分的に損傷し、ジュート繊維の引張強度が低下する[1]。そこから、煮鞣し処理は一定程度、縄を柔らかくする効果を持つと考えられる。
酸処理及び加熱処理により、セルロースの加水分解が起こることが予想される[2]。ジュートの主成分はセルロースであることから、セルロースの加水分解によって縄が柔らかくなる可能性がある。
また、アルカリ処理により、ジュート繊維のヘミセルロースとリグニンがアルカリ溶液に溶け出し、セルロースのみが残る[1]。これにより繊維の内部に空隙が生じ、繊維の位置がずれる。また、セルロースのみが残ることで、繊維の強度や耐久性が向上する[1]。この構造の変化が縄の柔らかさに与える影響は明確ではないが、縄が柔らかくなる可能性もある。
2.目的
1.1緊縛におけるジュートロープにおいて述べた課題点のうち、鞣し作業の労力及び再現性の低さを解決するため、薬剤を使用した縄鞣しの可能性を検討する。1.3ジュート繊維の化学処理においてまとめた先行研究[1][2][3]より、酸処理とアルカリ処理を採用し、薬剤を使用した場合と従来の縄鞣し(擦り鞣し)を行った場合の縄の性質を定性的及び定量的(引張強度、剛軟性、摩擦係数)に評価する。
仮説
・縄の柔らかさは剛軟性によって評価できる
・擦り鞣しは剛軟性を柔らかくさせるための処理である
・(縄を擦り合わせることにより)擦り鞣しは縄の引張強度を減少させる
・薬剤を用いた処理により、擦り鞣しを行った縄の性状と同等の性状を達成できる
3.方法
3.1比較対象
従来
①無処理
②擦り鞣し処理(室温、30min漬け置き)
③水に漬け置き処理(室温、30min漬け置き)
アルカリ処理
④4%NaOH水溶液処理(室温、30min漬け置き)
酸処理
⑤0.1%サンポール(含 9.5%塩酸、界面活性剤)(室温、30min漬け置き)
⑥5%HCl水溶液処理(室温、30min漬け置き)
⑦1%HCl水溶液処理(室温、30min漬け置き)
※今後の再現しやすさのために入手のしやすさを考慮し、9.5%塩酸が含まれる洗剤のサンポール群を設定した。ただし、サンポールには色素、香料及び界面活性剤が含まれる。
※煮沸が現実的には不可能であったため、煮沸30minを取りやめ室温30minとした。
※酸/アルカリ処理では縄を漬け置きする必要があるため、漬け置きと薬剤処理の影響を分離するため、比較対象として③の漬け置き処理も行う。
※本命は1%HCl及び4%NaOH
3.2評価方法
定性的評価
鞣し作業後の縄の柔らかさや緊縛に用いた時の使用感を5段階で評価する。
評価項目については要検討縄の色:写真で濃淡を撮影
定量的評価
質量:乾燥後に質量を計測
引張強度:外部機関の機器利用(自動強伸度試験機)
摩擦係数:外部機関の機器利用(摩擦感テスター)
剛軟性:外部機関の機器利用(剛軟度試験機(カンチレバー形))
3.3材料
縄(ジュートロープ)
寸法・形状:直径6 mm、長さ7~8 m、三つ打ち
材質:ジュート(黄麻)10%希塩酸
サンポール
1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液
4.注意点
酸処理
粘膜刺激性があるため、十分な換気が可能な環境もしくは屋外で、マスクと手袋、安全眼鏡を着用して作業を行う
廃液はアルカリ溶液で中和した後適切に廃棄する
アルカリ処理
手袋、安全眼鏡を着用して作業を行う
廃液は希塩酸で中和した後適切に廃棄する
5.結果
5.1色の変化
白背景及び黒背景で撮影した各縄(左から無処理、擦り鞣し、水、4%水酸化ナトリウム、0.1%サンポール、1%塩酸、5%塩酸の順番)
![](https://assets.st-note.com/img/1720431194987-xaUhm5MUzW.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1720431243694-4aaeI21W5D.png?width=1200)
5.2重量の変化
![](https://assets.st-note.com/img/1720428300530-iPQEAwVpdx.png?width=1200)
5.3引張強度
※天然素材ですので、購入元や購入の時期、使用の状況(温度、湿度)など多くの要因によって結果が大きく変動すると考えられます。
あくまで今回の結果は参考程度にお考えください。
本noteは縄の強度について何かを保証するものではありません。
引張強度を自動強伸度試験機で測定した結果、擦り鞣し群と水で漬け置きした群において引張強度が無処理群と比較して有意に減少しているという結果は得られなかった(TukeyHSD法、有意水準5%)。
一方で、4%水酸化ナトリウム群、0.1%サンポール群、1%塩酸群、5%塩酸群は無処理群及び擦り鞣し群と比較して引張強度が有意に減少していた(TukeyHSD法、有意水準5%)。
![](https://assets.st-note.com/img/1720510242083-Bmct2VANr6.png?width=1200)
表5.2:無処理群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432831878-mz57nOg8Tg.png?width=1200)
表5.3:擦り鞣し群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432846388-RqPkU0UQAo.png?width=1200)
表5.4:水群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432860042-nBoEHGXaLJ.png?width=1200)
表5.4:4%水酸化ナトリウム群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432875236-C98QuQehq6.png?width=1200)
表5.5:0.1%サンポール群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432888866-ia2pdFsilp.png?width=1200)
表5.6:1%塩酸群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432930269-jr7r7fvgvi.png?width=1200)
表5.7:5%塩酸群の引張強度
![](https://assets.st-note.com/img/1720432913003-KEsuQkAzCZ.png?width=1200)
5.4摩擦係数
表面の凹凸が大きく、摩擦感テスターで測定することができなかった。
5.5剛軟性
縄が硬く、いずれの群においても15 cmの縄では剛軟度試験機(カンチレバー形)で測定することができなかった。
5.6ユーザーによる定性的評価
準備中
6.考察
仮説
・縄の柔らかさは剛軟性によって評価できる→?
・擦り鞣しは剛軟性を柔らかくさせるための処理である→?
・(縄を擦り合わせることにより)擦り鞣しは縄の引張強度を減少させる→✖️
・薬剤を用いた処理により、擦り鞣しを行った縄の性状と同等の性状を達成できる→✖️
6.1剛軟性について
41.5°のカンチレバーを用いて縄の剛軟性を測定することができなかったため、擦り鞣し群の剛軟性が無処理群よりも柔らかくなっているかどうかを検証することもできなかった。
我々が縄の柔らかさと認識するものが縄の剛軟性によって定量化可能なものなのか、縄の柔らかさとは何なのかから定義しなおす必要があるかもしれない。
6.2引張強度について
擦り鞣しにより、縄の引張強度が低下するとは言えなかった。また、縄に擦り鞣しと同等の効果をもたらすと仮説を立てた酸性処理では、引張強度が無処理及び擦り鞣し処理と比較して著しく低下しており、実用には適さないと考えられる。
7.まとめ
擦り鞣し処理によって、引張強度には顕著な低下は見られない。酸処理を行った場合、引張強度が顕著に低下し、実用に適さないと考えられる。
8.参考文献
[1]Park, Joung-Man, et al. "Interfacial evaluation and durability of modified Jute fibers/polypropylene (PP) composites using micromechanical test and acoustic emission." Composites Part B Engineering 39.6 (2008) 1042-1061
[2]Samanta, Ashis Kumar, S. M. Roy, and D. Singhee. "Effects of acid/alkali and cellulase enriched mixed enzyme treatments on properties of jute-cotton union furnishing fabric." J Textile Eng Fashion Technol 1.2 (2017): 53-60.
[3]Ramesh, Manickam, and C. Deepa. "Processing and properties of jute (Corchorus olitorius L.) fibres and their sustainable composite materials: a review." Journal of Materials Chemistry A (2024).