人間きょうふ症(リメイク)26〜30話
26章
「本当に助かりました。」
「なんのことかしら。」
「百合園さんのことです。」
「あぁ、それくらい大丈夫よ。彼女に私たちが何をするかを知る権利はないからね。」
「にしても、、先生は私に優しいですよね。他の人といるときは、意外と冷たいのに。」
先生は、聞こえなかったかのように振る舞った。無言の状況も続いたので、気まずく感じたので、話す内容を変えることにした。
「あ、えっと、それはそうと、今日は大丈夫そうでした。」
「そう。一安心ね。明日も学校来られそう?」
心の底にあるあの不安の塊を抱きながらも、少し縦に頷いた。
「...なんかあったの?」
「...いや、特にないです。明日学校に来ますね!んじゃ!」
先生の顔を見ずにすぐに家へと向かった。先生はきっと察している。きっとでなく、絶対だね。先生には敵わないね。いつか、嫌に感じた時に先生にその思考を読心術で読み取られないようにしないと。先生には申し訳ないけれど、感情のせいで心配されたくない。
明日から通常通り行くことになる。A花さんの何でも知ろうとしたり、自分の方が知的ですよアピールをしたりするんだろうな。それでも迷惑はかけたくないから、行くんだけど...。
27章
学校生活は、順調そう。授業も静かだし、クラスメイトに何かされていることもないし。体力もだいぶ慣れてきた様子。そんな生活を二週間ほど立った後だった。
この日には午後に体育があり、朝早くきた私はロッカーを開け、体操服を取ろうと思った。しかし、体育袋がどこにも見当たらなかった。忘れたはずはないと思い、何度かロッカーや他の場所を見てみたが、それでもなかった。家に持っていった記憶もなく、どこかに忘れたのではないかと思い、体育館や更衣室へ探しに行った。探りに探ってみたものの、その痕跡がどこにもなかった。仕方なく教室へ戻り、体育は見学することにした。
奇妙に思ったのはこれだけではなかった。英語の授業が終わって、お昼を教室から取って中庭で食べようと思いながら、スクールバッグを開いた。入れたはずのランチボックスが見当たらなかった。
この時、何かを察した。おそらく、クラスメイトがやったのだろう。ストレスを抱えてしまうのもいけないかと思い、クラスメイトに見られないように、人気のない場所へ向かった。
すると、聞き覚えのある足音が耳の中に入り込んできた。
28章
「佐藤さん。ここで何をなさっているのですか?」
「...べ、別に、何もしてないよ。単に涼もうかなって。」
「あら、そう。てっきりクラスメイトから逃げていたのかと思っていましたわ。」
この状況に見覚えがあった。去年のアレ。記憶が段々と蘇ってくる。
「最近の生活はどうですの?」
「まあ、慣れつつ入るよね。」
多少の焦るを感じながら答えた。
「そうねえ。では、もっと慣れるために私からのアドバイスをあげるわ。」
A花さんは、指をパチンと鳴らした。足音とヒソヒソ声が聞こえ始めた。複数の女子が現れる。
「彼女をとびっきり可愛くしてあげて頂戴。」
私は一人のハサミを近づけてくる子を見て、放心状態になりかけた。正気を戻して、この状況から逃げ出さなければ。そう思い、ハサミを持っている子の逆側を突っ走ろうと考えた。逃げ始めた瞬間、他の女子たちも追いかけにきて、腕を引っ張ってきた。力づくで逃げようにも、数の多い相手には敵わなかった。ハサミの子が少しずつ近づいてくる。コトン、コトン、チョキ、チョキ。ローファと閉じたり開けたりするハサミの音が次第に大きくなってき、悪魔の歌の伴奏かのように聞こえる。
私の間近でハサミが大きく開かれた瞬間、
「何をしているのでしょうか?騒がしいですよ。」
29章
先生の声が廊下で鳴り響いたのであった。
「あら、K先生、いらっしゃったのですね。奇遇ですわ。」
「何をしているのですか?」
「K先生には関係のないことですわ。」
「いえ、それはないと思いますが。ハサミは振り回りていると危ないので私が預かりますね。そして、イエス・キリストみたいに佐藤さんを掴んでいるようですが、何かの儀式でしょうか?」
「K先生、わたくしのパパのことご存知ですわよね?」
「ええ。勿論存じます。」
「パパに言えば、K先生の職場がなくなることはわかっていらっしゃる?」
「ええ。それも存じます。」
「仕事辞めたいのかしら?」
「百合園さんは知らなくても良いことがあると思いますが。まず、彼女を手放してから話し合いませんか?」
「お断りするわ。下手なことすれば、佐藤さんに痛い目合わせるわよ。」
先生は、深く息を吸って言った。
「もしかして、そのハサミでです?それだと、あまり切ることではないのでは?私が切れ味の良いものを渡しましょうか?」
「え...。」
先生の試行錯誤が理解できずにいた。A花さんの味方についていたの...?先生に見捨てられたの...?でも、最初の手放すように促したのはどういうことなの?頭の中が真っ白になってしまった。
「あら、考え直したのね。やっぱり職場は失うと困りますよね。そうと来れば、K先生の手に任せるとしましたわ。では、あの小汚いモップを切ってもらいますわ。」
「わかりました。」
先生が目の前に来た。彼女の目は殺意が湧き出ているかのようだった。よっぽど私のことが嫌いだったのかな...。迷惑だったのかな...。
30章
先生は手に持っていた切れ味の良いと言っていたハサミを手放し、私の腕を引っ張りながら大声を出し、群衆から逃げた。なぜ置かれていたのかがわからない校門前のスクールバッグと先生の手荷物を持ち出し、学外へと疾走していった。状況を飲み込めずにいた私は、先生の速度に追いつくようにだけ走っていき、引き摺らないように試みた。
先生は学校の一駅先へまで速度を落とさずに走った。そして、突然立ち止まり、呼吸を整えながら「ごめんね。」の一言を放す。息がまだ荒れていながらも、ポケットの古銭入れを出し、近くの自販機にお金をいえて水を買った。
「佐藤さん。これを飲んで呼吸を整えて。これからの道は長くなりそうだから。」
私は水を受け取り、飲み始めた。ボトルを口から離した後、私は先生に尋ねる。
「先生、私って迷惑ですか?」
「迷惑であったら、ここまで連れてっていたと思う?」
いつもの落ち着いた声で返答する。
「にしても、よかった。なにかがおかしいと思っていたからそれに気づいてよかった。」
「でも、先生...。仕事は大丈夫なんですか?」
「まあまあまあ。なんとかなる。実は学内以外でも色々活動しているし。」
「学校の先生って副業ダメなんじゃ...。」
「鋭いところは突かなくて良いのよ。それはそうと、今からどこ行くかだね。一旦、こっちへ行こうか。」
先生は私の腕を引っ張っていった。たどり着いたのは、全世界で安くて着心地が良いとされているブランド店だった。
「好きなものを選んで。」
「え?」
「いいから。制服だと居場所がバレちゃうでしょう。」
「は、はい...。」
先生は何がしたいのだか。そう感じながらも先生の言葉に従った。