人間きょうふ症(リメイク)16〜20話

 16節
 中学生のときの運動会でもらった藍色のハチマキを頭に巻き、私にもできることを証明するためのモチベーションを上げた。
 「なんだ、これ解けるじゃん。さっきの消極的な言動はなんだったんだろう。」
 好きなモーツァルトの曲を蓄音機で流しながら、鉛筆をスラスラ動かす。
 終盤に突入!そう思っていた。背筋に冷たいものがスッと走った感覚。手が少し震えて鉛筆を落としてしまった。…前にも経験した気がする。
 「あなたの実力はそんなもんなんだね。ハードルが変わるだけで気持ちがすぐ変わる。」この言葉が浮上した。
 「いや、先生は私に試練を与えているんだ。今はきちんと集中して解かないと。」
 考えを改め、必死になって解くことを試みた。最終的には書き終わらせることができた。
 「先生、終わらせたよ…。明日学校に行って、80%以上取れていると良いなあ」
 今晩は鼓動を少し抑えて寝た。

 17章
 目が覚めると、テストを提出する日がやって来た。急いで学校へ向かった。先生は、例の教室で待っていた。
 「おかえりなさい。」
 「ただいま…って、え?」
 「どうかしました?」
 「おかえりなさいっておかしくないですか?家でもないのに」
 「帰るところが家だけだとは限らないでしょう。」
 「ま、まあそうなんですが、ここ、学校ですよ?」
 「そんなに驚かなくても良いと思うけれど。そもそもここに帰ってきてるんだから、使っても良いでしょう?」
 「先生、話が単純化されすぎてません?」
 「そんなこと言われても、ねえ。社会は単純化して考えないとやってられないのよ。」
 「はあ…。それはそうと、採点お願いします。」
 「自信があるからそれを言うのかなあ?」
 「そこまでないです!でも、頑張りました。」
 例の問題のことは言及しないでおいた。先生はその場で青ペンを使って採点し始めた。
 「そういえば先生、青でまるつけするんですね。」
 「あなたが前に課題出したとき、それでつけていたからよ。赤はインパクトが大きすぎるのかなって。」
 「まあ、半分当たってますね…。」
 すると、先生は改めて添削し始めた。しばらく沈黙が続いた。その間、ペン先をじっと見つめた。

 18章
 採点は終わったようだ。
 「佐藤さん、あなたは、満点だったわ。」
 「そうですよね…8割取るわけないですよね…」
 「取ってるよ」
 「え、あ。取ってるんですか?ち、ちなみに何点です?」
 「100点」
 「え、私が…?」
 「他に誰がいるのよ」
 「嘘…ではないですよね?」
 「私が嘘をついているように見えますか?」
 私の表情筋がコントロールできなくなってきた。それでも笑顔になることを躊躇していたので、できるだけ平常を保とうとした。
 「佐藤さん、次のステップに入りましょう。」
 「え、あ、もう良いんですか?」
 「当たり前でしょう。このテストで満点をとっているのだから。んじゃ、ちょっと待っていてくれる?」
 先生はそう言って、教室から出て行った。数分後、ホチキスで止められている束のプリントをいくつか持ってきた。
 「今のあなたなら、なんでも解けると思います。なので、全教科のテストを一旦解いてもらいます。そこに出た点数は、課題点と小テスト点として加点します。」
 「じゃないと、成績が大変なことになりますもんね...」
 「そうね。ただ、今はまだ行いません。これらのテストは来週の月曜日と火曜日に分けて実施しましょう。その時までにきちんと復習してきてください。」
 「10科目ですね。体育と保健が一緒のものらしいので実質11科目だけれども。」
 「わかりました。頑張ってみます。」

 19章
 帰宅し、3日くらい勉強に励んだ。家での学習は意欲が低下するため、カフェや図書館で長時間集中して問題集をひたすら解いた。
 そしてテスト当日、脈拍が多少リズムを外しながらも学校の例の教室に行く。先生もまもない時間できた。
 「おはよう。少し疲れているようだけれど、きちんと眠れた?」
 「そこまで寝ていませんね。大体2から3時間くらい、だったと思います。」
 「結構短いね。普段はどれくらいなの?」
 「平均して4、5時間くらいだと思います。やることがあるので。」
 「普段から短いのね。それで大丈夫なのであれば、良いとは思います。」
 先生は何か聞きたそうにしていた。睡眠時間を削ってまで、家で何しているのか、だと思う。でも口には出さなかった。これはきっとわざと聞かなかったのだろう。
 「では、テスト始めましょう。順番は現代文、数学、日本史、地学、コミュニケーション英語です。テスト時間は各30分で間の休憩は約10分程度にしましょう。質問はありますか?」
 首を横に振った。
 「わかりました。では、はじめ。」

 20章
 テスト開始の合図で鉛筆を持った。今時、ほとんどの人はシャープペンシルを使う。でも私は常に鉛筆派。そっちの方が集中しやすく、持ちごたえがあると言い聞かせている。
 最初は現代文なので、少しは抵抗を感じている。それでも、前回のテストが満点だったことで、ある程度の知識と論理的思考力はあると実感できた。なので、気分に圧迫されることはんかった。全て時間配分に気をつけながら、流暢に問題を解いていった。
 「やめ。鉛筆を置いて。」
 鉛筆を置いたと同時に息を吐いた。
 「...つかれたー」
 「お疲れさま。次は古典ね。でもその前に10分程度休憩してください。」
 「にしても、久しぶりのテストって案外疲れますね。」
 「それは集中力がいるからね。今日はあと4つあるので、頑張りましょう。」
 「はい。頑張ります。」
 そう言って机上に上半身をだらっと乗せて休息した。
 テストが再開すると、現代文のように問題を注意して読み、手を動かす作業に戻る。テストが終わる時は、上半身を机上に乗っける。このようなループで今日のテストは乗り越えた。

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