ご褒美あんみつ
私の母は、タロット占い師である。
母の本業は、博物館での遺物の整理作業員。週に4日ほどパートとして勤務している。
農家の嫁でもある。しかし、14年前に家業の農業をクビになり、博物館に働きに出たのである。
母が家業をクビになった理由は、父が母よりも自分の姉の雇用を優先したためである。
母と小姑である父の姉は折り合いが悪い。折り合いが悪いというか、父と母が結婚して数年経ったころから、母が一方的に意地悪をされている。伯母は、可愛い弟の嫁が憎くて憎くて仕方ないのである。私が幼いころから見てきた限り、母には一切非がない。
母は「これ以上小姑と一緒に農業はできない」と父に訴えた。そうしたところ、「それなら、お前が外で働いてくれ。姉ちゃんがいてくれないと困る」と父は言ってのけたそうだ。
伯母が我が家で働けなくなって困るのは、父ではなく伯母自身である。農業以外で働いた経験がないのである。伯母はいわゆる社会不適合者。他人と円滑な人間関係を築くことができず、社会に出て働けないのである。
かくいう私も精神疾患を抱えた社会不適合者であり、なんとも皮肉なことである。
そんなわけで、母は家業を追われ、博物館での仕事に就いたのであった。
しかし、博物館の仕事だけでは経済的に立ち行かず、母が副業として占いの勉強を始めたのが、6年前。
占い師として本格的にデビューしたのが、ちょうど2年前のこと。
今では、月に一度、知り合いのエステサロンで出張鑑定を行っており、10月には電話占い師としてのデビューも決まっている。
月に2~3回程度、自宅サロンでの鑑定も行っている。
母は今まさに、副業である占いを本業にしようとしているのである。
今日はそんな母の、月に一度のエステサロンでの出張鑑定の日。
仕事終わりに、母が自分に買うご褒美スイーツに便乗することが私の楽しみである。
今日のご褒美はなんだろう。ケーキが食べたいな。ミスドのドーナツもいいな。
なんてソファでごろごろしながら考えていると、いつもより1時間ほど遅れて母が帰宅した。
「シャトレーゼであんみつ買ってきたよ~」
母からの嬉しい一言!
期間限定の白桃あんみつ。新鮮な白桃もほどよい甘さの生クリームもあんこも、すべてがキラキラと輝いて見える。
母が仕事を頑張ったご褒美。私がお留守番を頑張ったご褒美。
幼い頃に戻ってしまったような今の自分を申し訳なく思いながらも、私は母からのご褒美のあんみつを堪能したのだった。