二兎社 『こんばんは、父さん』
この作品、観終わって明るい気持ちにはなれないかな。少なくとも私は。
何も解決していない。作品の中でも。そして現実でも。
1. Perplexityによる概要
永井愛が手掛ける「こんばんは、父さん」は、震災と原発事故後の日本を舞台に、世代の異なる3人の男性が廃墟となった工場で偶然出会う物語。風間杜夫、萩原聖人、竪山隼太が演じる70代、40代、20代の男たちが、それぞれの人生の岐路で交錯し、笑いと共に濃密な人間ドラマを紡ぐ。日本の近現代史を背景に、世代間の価値観の相違や社会の変化を鋭く描き出す注目作。
2. 作品を観て
正直、ちょっと冗長かなと思った。特に序盤。
あと、どうみても首吊り縄ですよね?と言う小道具が出て来た時と、「父」がそれに首を突っ込んだ時に、客席から笑いが起こったのには少し引いた。
作中で3人の力関係が割とコロコロ入れ替わるのだけど、私には何故そうなるのかがよく分からなかった。男性間の力関係の機微は、男性の方が理解し易いのかな。私がニブいだけかもですが。
「父(70代)」も「息子(40代)」も、ある程度自業自得感があるけれど、山田くん(20代)は他の選択肢を持てなかった、若しくは知らなかっただけなのかなと思われた。この一夜で彼の人生に新たな扉が開かれると良いな。
そして「父」と「息子」も、ある程度は自業自得だとしてもなお、それなりに明るい未来を思い描ける世の中であって欲しいと切に願う。
3. ポストパフォーマンストーク
永井愛さんによるポストパフォーマンストークでは、2012年初演時のお話、何故今この作品を再演しようと思ったのかと、今回のキャストのお話などを20分ほど聞かせていただいた。諸々記憶が曖昧なのはご容赦下さい。
元々は佐々木蔵之介さんと何かやろう、と考え始めていたところに3.11が来て、元々考えていたものからガラリと変え、先行きの不透明さや不安定さを描いたのが初演時、という様な事を仰っていたと思う。
最初から構成を考えて書いた作品ではなく、設定だけ決めてPC上で即興劇的に書き上げた作品とのことで、ここで星児(山田くん)なら何か買って来るんじゃ無いかな?と思って、最後のシーンにつながり、終わり方もその流れで、と言う感じだった様な。
何故今、については、初演時から10年以上経っても世の中は不安定で不透明なままで、なんならその状態に慣れてしまってしまっているのではないか、それではイカン!と言う様なお話だったかと。
今回のキャストについて振られた永井さん、暫しの沈黙の後に「優等生じゃない」と。それぞれ色々自分で考えて持ち寄るタイプ、と言う様な事を仰ってました。初めましてのメンバーだったそうなので、演出家としては色々大変だったのかなぁ、と思ったり(隼太くんは一度リーディング公演に出てるそう)。
聞き手の方が、作中と同様、隼太くんの役名の「山田」を「田中」と呼び違え、永井さんに「山田です」と訂正されたところが、一番の笑い所でした。
4. おわりに
私は3.11が日本の行末を一足先に可視化したと思ってて、それでもこの国はそれが見えないフリをして今日まで来てしまっている事を改めて痛感させられる再演だった。
この先10年、20年後、3人の登場人物の未来に少しでも明るい光が差すような世の中になるために何が出来るのか。分からないけど、考えたい。