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常連店 〜博多の喫茶店〜

こんばんは。
yumiです。

今日は私の大好きな喫茶店の話。
常連で行く店は飲み屋ばかりじゃないのよ。

博多駅から徒歩10分程度のところにある喫茶店。
長いカウンターと、テーブルが5席くらいのお店。
見るからに頑固そうなマスターと、若いバイトの子でやっているお店で、私はこの店のブレンドが好きだ。

会社の近くにあったその店は、当初、喫煙可能だったから、いつも煙がモクモクしていて、近寄りがたい店だった。(私は煙草が苦手)
しかし、時代の流れもあり、いつのまにか禁煙に。

禁煙のおかげで、お店を認識してから何年か経って初めて足を踏み入れた。
ランチタイムは近隣の会社の人達で賑わっている。

私は会社のシフトの都合で、だいたい14時か、15時の遅めのランチに利用していた。
13時以降登場するナポリタンが食べたいから。
粉チーズをたっぷりかけて食べるナポリタンが最高で、食後のコーヒーがほっとさせる。
店内も落ち着いている時間。

このお店では、特にお店の人に話しかけたこともないし、話しかけられた事もない。
常連さんの多いお店ではあったけど、常連同士の交流もない。

私は時々、出勤前の朝のモーニングタイムも利用していた。
トースト2枚と、目玉焼きとキャベツとコーヒーで、500円というお安さ。(※当時の値段)
朝はお店も空いているし、ゆっくり珈琲も飲める。
自分の時間を楽しめる店。

いつだったろう。
まだ私が通い始めて間もない頃だった。
いつものように、遅めのランチタイムにナポリタン食べていて、食べ終わった頃に財布を忘れたことに気づいた。
顔面蒼白だよね。
財布がない。
が、しかし。
会社はすぐそこ。取りに帰れる。
私は正直にマスターに申し出た。

ごめんなさい、財布忘れてしまって、会社すぐそこだから、すぐ戻るから、すぐだから、待ってください。
暑い夏の日だった。
マスターは、私をチラッと見て、無愛想に、今度でも良いよ、と言った。

話したことはなかったけど、よく来ている私の事は知っていたんだよね。
そう言われて少し嬉しかったし、ホッとしたけど、今度ってわけにはいかない。
ダッシュで行くから待っててくださいね、と告げて、急いで会社に戻る。

走って店に戻ると、マスターは、テイクアウト用のアイスコーヒーを用意して私を待っていてくれた。
外暑いだろう。アイスコーヒーも旨いから、と。

食い逃げ未遂の私のために、アイスコーヒーのサービス。
しれっとマスターは言う。
アイスもブラックでいいの?と。
話した事もなかったけど、私がいつも、ホットコーヒーをブラックで飲んでいる事を知っている。

受け取り下手の私は、そのサービスのアイスコーヒーのお代も払おうとして、マスターに笑われた。
頑固親父もこんなふうに笑うんだな、と思った。
ありがたくコーヒーを頂いて、財布忘れたおかげで、午後も頑張れます!ありがとう!と、満面の微笑みをマスターに返す。

見るからに頑固親父で、バイトにも厳しくて、とっつきにくいけど、お客さんをよく見ていて、気遣いも一流。
もともと大好きなお店が、私はますます大好きになった。

そして、やっぱりコロナの煽りを受けて、お店はモーニングの時間に開いていない日が多くなった。
営業時間が変わったのだろう。

お客さんの少ないランチタイム。
お支払いをした時にマスターがポツリと言った。
最近、朝開けてないけど、シャッター半分開いてる時は、入ってきていいよ、と。

それから私はちょくちょく朝も行くようになった。
マスターが招き入れた常連客だけが入れるモーニングタイム。
特別感もあって、ゆったりしていて、朝の私の大事なひととき。

モーニングタイムは、いつもいるオジサンと、たまに来るオジサン。
厳選された常連客の中で、一番ゆっくり店にいたのが私だった。

この店のブレンドが好きで、香りを楽しみ、味を楽しむ。
冷めても美味しいコーヒーだと伝えると、マスターは嬉しそうに、この上ない賛辞をありがとうと言った。

それから朝行くと時々ブレンド以外のコーヒーも出してくれるようになった。
味が全然違うのはわかる。
香りも全然違う。
好きなのは、やっぱりブレンドだ。

こうして、時々マスターと喋るようになった。
マスターのお孫さんの話を聞いたり、趣味の話を聞いたり。
豆の焙煎の話を聞いたり、好きなお酒の話をしたり。
全くお話ししない日もあったし、忙しそうに厨房で仕込みをしている日もあった。
私はそこで、マスターの気配を感じながら、自分の時間を堪能するのが好きだった。

ある日のモーニングタイム。
毎日のように来るオジサンと、時々来るオジサンと、私の3人の客がいた。
シャッターは、半開き。
そこに、見知らぬオジサンが入ってきて、「店やってますか?」と聞いた。
マスターは、キッパリと「やってません」と言った。
10時半からなんですよ、すみません。と。
客は、引き下がらなかった。
だって、3人もコーヒー飲んでる人が見えちゃってるからね。
「店、やってますよね?」
そんなことで怯むマスターじゃない。
「やってません。営業時間にまた来てください」
これ以上何も言えなくなるような圧。

この店のルールは、このマスターだ。
朝の私たちの平穏は、マスターの手で守られている。

転勤になったことを告げる日は、気が重かった。
マスターはきっと寂しがるだろう。
5年以上かけて、私たちは、やっと仲良くなってきたのだから。

転勤なんてあるのか、新潟?なんでまたそんな新潟?
案の定マスターは驚いて言った。
せっかく仲良くなれたのに…と下を向く。

まだ何回か来ますから、と私は言う。

何年かで帰って来れるんだろう?とマスターは言う。
期間は決まってない。
仕事が出来る奴は飛ばされちゃうんだよ、さっさと新潟立て直して帰って来い、とマスター。
ウケる。
仕事の話はほとんどした事がなかったけど、マスターの中では、私はデキる人の認識なんだなぁ。嬉しい。

次に行った時には、マスターは、私の誕生日と、餞別にと、ワインを用意してくれていた。
こんな風にしてもらえるなんて思ってなかったから、マスターの優しさに泣けてしまった。

また来ますから。
遊びにも来るし、ちゃんと帰って来るから。
マスターもお店、ずっとやっててね。

んで、
感動的に別れたけど、4月にも6月にも訪問して、「早くねぇか?」と言われた私。

大好きな私の居場所の話でした。

書いてみて気づいたけど、この店で、私は、ナポリタン以外にも、ペペロンチーノも、ハンバーグも大好きなのに、その事全然書かないのね。
コーヒーも、ブレンドだけでなく、色々頂いたから、味の違いもわかるようになった。
カプチーノやカフェラテも美味しいし、この店はカップも可愛いんだけど、その話もなく、ただ、私は、この店を思う時、マスターとのエピソードを綴りたかったんだねぇ。
まだまだ通い続けるよ。

ここまで読んでくださってありがとう。
あなたの幸せを今日も祈ってます。

それでは、また。


そんな私の転勤話はこちらから。

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