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常連店 ~新橋のイタリアン~

こんばんは。
yumiです。

東京に住んでいた時から大好きなイタリアンのお店の話。

当時の勤務地は墨田区。まだ20代だった。
グループ会社の人が同じフロアに異動してきて、朝のトイレでいつも会う私たちはすぐに仲良くなった。

彼女は、墨田区の事務所に来る前は、虎ノ門のビルで働いていて、社内に知り合いが多かった。
ある日、会社の女子会に一緒に行かないか、と誘ってくれた。
それが、「美酒乱」という、酒乱が集う会だった。
同じグループ会社ではあるが、全メンバーが一緒に仕事をしたことがないという謎の男子禁制女子会。
とにかく、食べる事が好きで、お酒が好きな人の集まり。
最初の会合では、お酒の失敗談が繰り広げられ、お上品にしかお酒を飲まない私は、披露する話もなく、恐縮していたのを覚えている。

今ではその墨田区のビルも虎ノ門のビルももうない。

あの頃、虎ノ門の大衆居酒屋でよく集まっていた。
そこで散々熱燗を飲んだ挙句、新橋まで歩く途中にあったのが、イタリアンの店。

一階にピザ窯のある厨房があって、二階、三階が客席だった。
一階はワイン樽をテーブルにした立ち飲みのスペースがあって、
私たちは、その一階で、料理人たちと話しながら飲むのが好きだった。

飲んだあとのピザってなんでこんなにうまいんだろうね。
運ばれていく焼きたてのピザや、美味しそうなお料理をそこで全部眺めて、匂いをかいで、全部食べた気になっていた。

酒乱の会で知り合った一回り年上の女性と私は食の好みがガッチリあって、私たちはよく二人で飲みに行くようになっていた。
虎ノ門の大衆居酒屋とこのイタリアンだけでなく、ちょっといいフレンチも、もっと庶民の餃子屋も。
美味しいものさえあれば、私たちは、どこでも行った。

ある日、久しぶりにいつものピザを食べたいと予約しようとすると、店が急に閉店していた。
そのイタリアンの親会社が倒産していたようだ。
私たちは、慌てた。
だって、あの味がもう食べられないのは困る。

そして、ふと、もう一店舗新橋に店があった事を思い出す。
確か、私たちが通っていた店舗のソムリエがそちらに異動したはず。でも親会社が一緒なら、その店ももうないかも?
調べてみたら、奇跡的にその店舗は親会社から独立していて、まだ営業中だった。
すぐに2人でその店に向かう。

ソムリエはいたけど、ピザ職人と料理人はいない。
聞くと、ピザ職人は田舎に帰ってしまい、料理人は次の店は決まってないとのこと。
その場でソムリエに頼んで料理人と連絡をとった。
料理人は、しばらくはイタリアに行ったり、知り合いの店でバイトしたりで繋ぐけど、そのうち店をまたやると思うと言った。
なので、店を出す時は必ず連絡して欲しいとお願いした。

一年以上は、待ったわね。
料理人は新橋で店を始めた。
私たちは、喜んでまた彼の作る料理を食べに通った。

私が福岡に引っ越す事になるまでの数ヶ月、毎週のように、友達と2人で通った。
急に店がなくなった経験をすると、食べれるときに食べておこうと思うのか、今まで以上に通ったような気はする。
一年以上待ったってのもあったし。

料理人が新橋で店を始めてから、私達は、一度もメニューを見たことがない。
食べたいものがありすぎてメニューが決められないといつも言う私たちのために、料理人は、気分とお腹の減り具合だけ聞いてくれた。

最近知ったんだけど、私達がいつも食べてる盛り合わせメニューは、常連さん特別メニューなんだってさ。
そんなことさえ知らずに、いつもいつも美味しいものを提供してくれて、本当にありがたい。

あの日、私の人生が動いたあの日。
一番最初にこの店まで来て、私はやっとほっとして泣いた。
顔を冷やすために料理人がそっと私に差し出した氷は、砕かれていて優しかった。
この日、私は初めて、彼の作る料理を残した。
美味しいお肉だったと思う。
料理人は、ちょっと味が濃かったよねと、すまなそうな顔をして皿をひいた。何の味もしなかったし、生きている心地がしなかった。

それからも年に何度かはその友達と一緒に通っている。
福岡に行ってからできた彼氏を、婚約者として店に連れてきたこともあった。結局その人と結婚してないから、笑うんだけど。

いつも一緒に店に行っていた友達は、月に1回か2回は今でも通っていて、その時はいつもお料理の写真を送ってくれるから、実質私も一緒に月に1回か2回通っている感覚が続いている。

この料理人、一人で店をやっていて、もちろん私達以外にもお客さんはいるんだけど、いつ料理してんの?ってくらい、私たちの話にいつも付き合ってくれている。
どんだけ有能なんだよっていつも思う。

先日、私の居住地が新潟になってから、初めて店に行った。
たまたまこの日はお店はガラガラで、貸し切り状態で、ゆっくりできた。
まるで友達の家でくつろいでいる感じ。
料理人も、私も、友達も、三人とも、ちっとも人の話を聞かずに、ただただ、しゃべりたいことをしゃべって、美味しい美味しいと料理を楽しむ。
最高の夜。

美味しいものがあれば、本当に幸せ。
いつもいつも、どんなに辛くて苦しい夜も、ここの料理は私を幸せにしてくれる。
だから、何度でも行きたくなる。

とりとめもなくなってしまったけど、とにかく私はこの店が大好き。
好きな店を語る時、私はどうしたって人との繋がりと、その歴史に思いを馳せる。


ここまで読んでくださってありがとう。

それでは、また。

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