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履歴書⑪ひつじ再びフランスへ逃亡する。part・1

鎌倉のパティスリーで働く事にやりがいを見出せなくなり、耳の病気も深刻になったので、休養と今後どうしたいか?の自問自答をするためにとりあえず環境を変えようと、再びフランスへ行く事にしました。2ヶ月ほどの短期滞在ではこんな日々を送っていました。

再びフランスへ

2度目の渡仏先は地方がいいと思っていた。さて、どうしようか、と考えているとフランス人の知人のご両親が地方でパン屋さんをやっていると聞いた事を思い出した。

滞在中、何もしないのも何やら手持ち無沙汰気だと思い、気が向いた時にパン屋さんのお手伝いでもさせてもらえたら!と思ったのだ。

そしてさっそく知人に尋ねてみると、トントン拍子に話しが進み、快くご両親にも滞在の了承いただけた。とりあえずの「行く場所」は決まった。その街はラングドック地方のほぼ最南端でスペインとの国境近くにある「エルヌ」という町だった。


当時、地図やネットで調べてみたが日本国のサイトでは街の情報をほぼを見つける事が出来なかったため、急に不安になった。そんな街まで果たして辿りつけるのだろうか?私はフランス語も英語もしゃべれないのだが。。

フランス人の知人にパリからの行き方を聞いて、○月×日のこの時間に到着する電車に乗る事をお父様に伝えてもらい、当日は駅まで迎えに来てもらう事になっていた。

今回の再渡仏は前回のワーホリで来た時とずいぶん気持ちも違っており、耳の病気を抱え、お金に余裕があるわけでもなく、将来への漠然とした不安も抱えながらの滞在だったため、手放しで浮かれた気分には到底なれなかった。

とはいえ、せっかくフランスに来たのだから興味のある所へ足を向けなくては勿体ない。

到着後、まずはパリに数日間滞在した。その頃の私は19世紀のフランス人作家「バルザック」の本をよく読んでおり、19世紀当時の人や物事に関心を抱いていたため、バルザック記念館に行ったり、少し足をのばしてバルザックの著書「ざくろ屋敷」のモデルとなったトゥールに実在する屋敷を見に行ったりした。

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バルザックも住んでいたこの屋敷は記念館などではなく、現役の住居だ。人が住んでおり、中を見学することは出来ないため、外観を眺めるのみだが、とても美しい建物だった。

ロワール川沿いにあるこの「ざくろ屋敷」は19世紀に書かれた小説の世界そのままで、屋敷に行くまでのロワール川の描写など当時の小説の内容と全く変わっておらず、地図を見なくとも、小説に書かれているままに歩けばこの場所に辿りつけたほどで、とても感動した。

数日間、パリとパリ近郊を楽しみ、いよいよラングドック地方へ向かった。

この移動中の記憶はほぼないが、かなりの長時間TGV
(高速鉄道)に揺られた。乗り換えなども無事に終え、「エルヌ」に到着したのは夕方前頃だったと思う。地図に載っていない街はちゃんと存在していた。

乗り降りする人もほとんどおらず、寂れた駅に駅員が、けだるそうに座っていた。季節は夏で、午後の太陽の日差しは傾きかけていて照りつけるような暑さは少し和らいでおり、強めに吹き抜ける風が心地よかった。ピンク色に染まった空にツバメと思われる黒い鳥が沢山飛んでいたのを覚えている。

さて、無事に着いたと安堵しているのも束の間、私の事を迎えに来ている人なんて誰もいない!けだるい夏の午後、寂れた異国の知らない町に一人ぼっちで佇む。

まぁ、フランス人が遅刻するのは日常茶飯事だという事は心得ている。しばらく待ってみる事にした。しかし、30分たっても40分たっても誰もこない。さすがに不安になってきたため、日本にいるフランス人の知人に連絡してみる。日本は夜中だが。

眠っていたと思われる様子の知人が電話に出た。今の状況を伝えお父様に連絡してもらった。すると日にちを1日間違えていたとの事だった!

間もなく、一台の車が颯爽と現われ、知人の父親の「ジャン・ジャック」(以下「JJ」)が迎えにきた。「やぁ!一日間違えてたよ!」というような事を言っていた気がする。

JJは元気で明るくはつらつとしており、グレー交じりの白髪でこんがりと日に焼けていて、お腹の出ていないシュッとひきしまった体つきをしている、クリントイーストウッド似のかっこいいおじさんであった。

拙いフランス語で挨拶をする。とりあえず、誰かに会えてほっとした。駅から街は少し離れており車で6~7分くらいの距離で、町のほぼ中心地にJJのパン屋はあった。

JJ夫妻はお店とは別の場所に住んでいたが、パン屋の2階スペースは住居となっており、私は今回の滞在中この部屋に住まわせてもらう事になっていた。JJに簡単に部屋の設備の説明をしてもらうと「じゃあ、良い夜を!」と言って颯爽と彼は帰っていった。

しばらくの間はここで生活をするのだ。その部屋はずいぶん長い間使われていなかったようで、部屋中ほこりだらけでとても汚かった。

ここで気づいた方もおられるだろうか?パン屋さん、2階、ほこりだらけ、といえば、まさにあの有名な日本のアニメのシチュエーションと同じである!

が、実際の部屋は微妙に近代的でおしゃれ感も何もない、だだっぴろいただの汚い部屋だった。部屋に落ち着いた頃はもう日も暮れており、今日のところはとりあえず、自分の寝るスペースだけ綺麗にして、続きは明日にしようと思った。

その夜は何か食べたのか、食べなかったのか、全く覚えていない。フランスの夏は夜の9時頃も明るく日が暮れるのが遅い。とりあえず、色々と疲れていた。あまり清潔ではないベットに横たわる。エアコンのないラングドック地方の部屋の夏の夜はとても暑く寝苦しかった。

つづく。

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