驚異の瞬間記憶! 山下清
SONPO美術館で開催中の、国民的画家・山下清展「百年目の大回想」
🔹瞬間記憶能力って、聞いたことありますか?
これは、目で見た情報を瞬時にそのまま記憶することができる能力で、しかも忘れないでずっとその記憶を保持できるというもの。
この能力は生まれつき備わっているもので、脳の情報を処理する方法が多くの人と異なるために起こる現象だそうです。
実は、清もこの瞬間記憶のような力を持っていたんですよ。
え?何?何? って思いませんか?
清は放浪の天才画家として知られ、その波乱に満ちた生涯は映画やテレビドラマにもなったので、美術ファンだけでなく、昭和世代の人たちの間では知らない人がいない程の有名人。
その映画やテレビドラマの中では、いつも旅先で絵を描いていた設定になっていました。でも、清は下絵やデッサンは一切せず何ヶ月か放浪の旅を続け、貼り絵の作品は八幡学園に戻ってから集中的に制作していたそうなんです。
放浪は絵を描くことが目的ではなく、純粋に美しい景色を見たかったからとも言われています。
これらの作品全部が、下絵もデッサンもせず描かれていたって、びっくりですよね!
私は以前、瞬間記憶能力を持った弁護士さんが活躍するドラマを見て、「そんなことが出来たらいいのになぁ」なんて思ったことがありました。
でも、フィクションの話と思い込んでいましたので、清がまさにその瞬間記憶能力を持っていたと知り衝撃が走りました。たまたまではなく、作品は全て記憶にとどめ描いていたなんて、凄すぎませんか?
行く先々で見た風景を自分の脳裏に鮮明に焼きつけ、細部にわたるまで忠実に再現出来る、たぐいまれな記憶力。少し知的障害があったと言われていますが、その何倍も素晴らしい能力が備わっていたんですね。
🔹「日本のゴッホ、今いずこ?」
これはアメリカの雑誌ライフが清の作品を見つけ、ぜひ会いたいと放浪中の清を探すために朝日新聞が協力して出した新聞広告です。
「日本のゴッホ、今いずこ?」 素晴らしいキャッチコピー、さすがですね。
今と違って当時は新聞が一番だった時代。新聞の全国版にこんな広告が出たら一躍有名になりますよね。
清は鹿児島で見つかり、これを機に放浪生活に終止符を打ち、プロの画家として活躍することになります。
🔹大丸の個展に驚異の80万人!
プロとして活動を始めて2年後、大丸で開催された個展には80万人もの来客者が訪れ大盛況。
80万人と聞いてもピンときませんよね。
どれくらい凄かったかというと、日本に「ダ・ヴィンチ の モナリザ」が来た時は150万人という記録的な来場者数でした。あの凄さを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
150万人を1日平均に換算すると、1日あたり31,000人、大丸の方は30,000人とそれより少ないものの、凄い人数になります。
当時の皇太子様もお見えになられたそうですので、人気の凄さが伺えますね。
🔹作品って、貼り絵だけじゃないの?
実は私も、「山下清=貼り絵」のイメージでしたが、貼り絵の他に、ペン画、水彩画、油彩画、陶磁器の絵付など様々な技法で創作しています。ご紹介したことは山ほどありありますが、今回はおすすめポイント2つご紹介させていただきますね。
今回初めて見た、フエルトペンで描かれた「東海道五十三次シリーズ」
東海道五十三次というと、江戸時代に歌川広重が描いた浮世絵が有名ですが、その現代版。昭和の懐かしい田園風景が描かれていて、郷愁をそそる作品です。フエルトペンは太さが一定で強弱がつけにくいのですが、この表現力、圧巻ですよ。
貼り絵は以前から画像で見ていましたが、今回実際に見て、あまりの細かさと細部に渡る作り込みの素晴らしさに感動でした。色紙を細かくちぎって貼っていくので、限られた色数で濃淡やグラデーションを表現しなくてはいけないのですが、それが見事に表現されているのです。
印象派の画家たちは、絵の具を混ぜると濁るので、混ぜないで短いタッチの色を並べて表現していますが、清の貼り絵も、細くちぎって貼ることによってそれと同じような効果が得られているのではないかと思います。ぜひ、近くでしっかり見たり、ちょっと離れて見たりして、その効果を実感してくださいね。
🔹代表作「長岡の花火」
私の中では「山下清=長岡の花火」のイメージになっています。日本一とも言われている長岡の花火大会は、長岡空襲の翌年から毎年、8月1日に空襲で亡くなられた方々を慰めるとともに、平和への願いを込めて開催されているそうです。
「みんなが爆弾なんかつくらないで きれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんて 起きなかったんだな」
清の言葉に、胸が熱くなりました。
「今年の花火見物はどこに行こうかな」
これは、子どものように無垢な心を生涯持ち続けた清の最後の言葉だそうです。
これまで清の姿は、映画やドラマで脚色され、現実とは異なって伝えられていた。この回顧展では「本当の山下清を知ってもらいたい」そんな家族の方の熱い思いも紹介されていました。
私自身ドラマのイメージ強かったので、今回清のイメージがガラッと変わりました。小さいお子さんからシニア世代まで、年代問わず楽しめる展覧会、皆様もぜひ。