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姉が脱走してしまった時の母と私のコト #私が見つけた編

私には重度知的障害をもつ自閉症の10分違いの姉がいる。

姉は2年間就学猶予をして、小3から養護学校(特別支援学校)に入学した。
姉のことで、一番大変だったのは、脱走だ。

姉が初めて一人で出かけてしまったのは、小3がもうすぐ終わる登校の時。
4月に入学した姉は、最初はスクールバス通学だったが、12月に学校から
付き添い通学を勧められたのだ。
付き添い通学から一人通学になるのは長い時間が必要と言われていたが、
わずか2週間で、姉は電車と路線バスを乗り継ぎ、1人で通えるように。
母は「kiyoちゃんは、すごい」と喜んでいた。

ところが、ある朝の9時頃。姉の担任の先生から、
「kiyoさん、今日はお休みですか?」と電話がかかってきたそうだ。
「えっ?いつも通り8時に家を出ましたが…」と母。
幸い、この日は学校から連絡があった30分後に、バスの営業所で保護された。営業所行きのバスに姉は乗り、営業所に着いてもバスから降りなかったことで、見つかったと聞いた。
1人で出かけたことがなかった姉にとっては、楽しかったのだろう。
家族の目を盗んで、出かけるようになった。

姉の目線で言えば、わずかなチャンスを生かして、自由を手に入れる、
母と私の目線で言えば、ふと気づいたら、いない→逃げられた、だ。

姉が家からいなくなったと分かると、
母は駅と駅前のサンドイッチ屋さんに行き、
私は家のカギを持って、姉の行きそうな所に走って向かう。

なぜ母が駅に行くかというと、約40年前なので改札口には必ず切符にはさみを入れてくれる駅員さんがいたからだ。母は姉を見なかったかを尋ねて、もし来たらと、自宅の電話番号を伝える。駅前のサンドイッチ屋さんの前にはバス停があり、駅の時と同じように尋ねて、自宅の電話番号を伝える。
それを済ませると、母はいったん自宅に戻る。
当時は携帯電話も留守番電話もなかった時代。
自宅に戻るのは、「姉が見つかった」の電話をとるためだ。

現在の時代では考えられないことだが、
当時、姉の養護学校では「名前・住所・連絡先を書いた布を服に縫いつけること」になっていた。
しかし、我が家の場合は服が私と姉の共用だったので、縫いつけられない。
そのため、姉は幼稚園バッジをいつも服につけていた。
バッジは洗濯機に入れる前に、いつも母が外していた。

母は「とにかくkiyoちゃんを捜しに行って」と私に言うだけ。
私が独自に最初は線路沿い、次は、と走りながら考えた。
線路沿いにいなければ、そこから一番近いAのスーパーへ。
Aのスーパーに入って、姉が必ず立ち寄るゼリエース売り場を見る。
店員さんの並べ方とは違う、姉はココに来たんだ!
それが分かると私は、Aのスーパーから2分ほどのBのスーパーに行く。
同じようにゼリエース売り場を見る→来ていない、
私はいったん、そのスーパーから5分ほどの自宅に戻り、母に
「kiyoちゃんは、Aのスーパーには行ってる!」と報告する。

母「なんで分かったの?kiyoちゃんの足跡がついてたの?」
私「(少しあきれつつも平静に)ううん、ゼリエースがきれいだったから」
私「残っているCのスーパーと、Dのスーパーも行ってみる」
母「気をつけてね~」

再び、家を出た私は選択を迫られる。
Cのスーパーは歩いて20分ほど、Dのスーパーは隣の駅にあって歩いて30分以上はかかる。しかも方向は真逆だ。北に向かうか、南に向かうか。
なんとなく、今日は南方面の、隣の駅のDのスーパーに行ってみよう。

私は短距離走はクラスでも一番遅いくらいだったが、早歩きは得意だった。
すでに結構な距離を走っているので、早歩きで隣の駅のスーパーへ、
いつもそのスーパーに行くときに通る道を、
「どうか姉と会えますように」と願いながら早歩きする。

Dのスーパーに着いた→ゼリエース売り場へ行ってみる、
何も手がつけられていない、こっちじゃなかったか。
隣の駅には大きな本屋さんもあり、姉はそこで電車の本を立ち読みするのも好きなので、念のために寄ってみる。折り紙売り場も寄ってみる。
やはりいない。
家のカギしか持ってこなかった私は、再び歩いて家に帰るしかない。
誰かから「見つかった」と連絡が入っているといいけれど、
お金があったら、電車に乗って帰れたのになと、すぐ脇を通る電車を見ながら坂道を下る…

ゆっくりと坂道を上ってくるのは…ん?え?あれ?…姉だ!
不思議なことに、私が捜しまわっていなかった、と落胆した後に
姉と出くわすことが何度か会った。
その時の姉は「見つかっちゃった」というような感じで
少しいたずらっぽく笑っていた。
そして隣の駅の近くで会ったときは私に必ず、
姉「でんしゃ(乗りたい)」
私「無理だよ。お金ないもん。歩いて帰るよ」

私と姉は(私としてはもう逃げられないように)しっかり手をつないで
家に帰る。

家に帰ると母は
「あ~、よかった~!kiyoちゃん、もう一人で出かけちゃだめよ。分かった?」
姉「は、い」

だが、脱走は中1まで続いた。






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