わたしはマドレ
スペイン語の”お母さん”は、マドレ。
スペインのアンダルシア地方とバルセロナを旅する間、
娘たちは私を”マドレ”と呼んでいた。
それは、ただの”マドレ”じゃない。
スペイン語を洒落込んでいたのでもない。
”〇〇マドレ”とあだ名を作って私を呼んで、彼女たちは遊んでいたのだ。
そのきっかけは、レンタサイクルのお店の店主の言葉にウケたことだった。
セビリアの街を自転車で散策することにして、
何時間借りようかとか、どれがお得かなあ、などとやっていたら
店主がニコニコしながら両手を広げて娘たちに何か言った。
スペイン語がわかる娘に、なんてなんて?と聞いたら
「どうせマドレの財布から出すんだ。心配せずに一番高いのにしなよ!」
スペインの人の大らかで陽気なところが大好きな私たちは
この感じいいよねえー!と、ケラケラ盛り上がった。
そして「はいはい、マドレが出すよ」と財布を取り出した私を
”お財布マドレ”
と娘たちが囃し立てたのが、
マドレ遊びの始まりだった。
それからの彼女たちのネーミングセンスには笑いが止まらなかった。
”うっかりマドレ”
”おとぼけマドレ”
”お眠のマドレ”
”得意気マドレ”
”満腹マドレ”
朝起きたら”おはようマドレ!”
寝る前に”おやすみマドレ!”
何でもかんでもネタになり、
マドレになり、
3人でお腹を抱えた。
そして、今も思い出し笑いのネタになるマドレがいる。
語呂もとてもいい!
旅の最終日。
バルセロナ空港へ向かおうと、カタルーニャ広場のバス乗り場に着いた。
チケット持ってるよね?と娘に聞かれた。
はっ。チケット?
往復券だから半券なくさないでねって言ったじゃん。ないの?
、、、ない。
もうバスが来る時間だ。私は大パニック。
大事にしまったことは思い出したけれど、
どこへ大事にしまったのかなんて忘れてしまった。
ここまで大きなトラブルもなく
やった〜無事に帰れる〜と思ったのに
ここにきてチケットを失くすなんて!
そう大げさに落ち込む私を娘たちは冷静になだめた。
私は責められることもなく逆に励まされながら、
新しくチケットを買って、無事にバスに乗りこんだ。
まったくマドレはさあ、と二人は笑ってこう名付けた。
”お騒がせマドレ”
このマドレで、旅を締めくくった。