News From Home (邦題:家からの手紙)民族誌映画を見る #1

シャンタル・アッカーマンの「News From Home (ベルギー=フランス/1976年/89分)」には、あらすじがなく登場人物もいない。映画を勉強するために留学しているらしい「わたし」の目線でみるNYの街並みに、遠く離れて暮らす母からの手紙を読む「わたし」のナレーションがオーバーラップする... ただそれだけなのだが、NYの街並みと母からの手紙が重なり合ううちに、都市を生きる「わたし」の孤独と家族への焦燥感が滲み出でてきて、奇妙な詩的情景が紡ぎ出されていく。

何通も何通もおくられてる母から「わたし」への手紙には、家族だけがわかる「ニュース」が綴られているけれど、その内容はとりとめがなく覚えていることは難しい。「わたし」は、NYでたくさんの友達をつくり充実した暮らしをしていることが母からの手紙を通して語られるけれど、「わたし」が描くNYはどこまでも傍観者的で、ウディアレンやスパイクリーのNYはどこにも見当たらない。
街角や地下鉄の駅、立体交差する道路や倉庫街。それらはありふれているから覚えていられないし、たくさんの人が歩いているのに「わたし」の友達らしき人はひとりもでてこない。子連れ、ビジネスマン、老人、恋人たち。多様な血筋を持った人びとが、それぞれの時間を生きている。「わたし」はそれを眺めながら、積極的に関わりを持つことはなく、家族の物語に縛られている。

89分の間に体験するのは、傍観者として眺めるNYに遠くはなれた家族の物語を投影する「わたし」の視点である。

アッカーマン20代半ばの作品。NY育ちのクラスメイトは「こんなNYを見たことがなくて新鮮だった」と言っていたけれど、私は初めての海外長期滞在先だったバークレーの街並みを思い出していた。他人のようだった街は、どうやって「わたしの街」になるんだろうか?

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