
開け方
朝ファンデーションを塗っているバスルームで息子がもがいていた。 歯を磨き終えて仕上げのマウスウオッシュで口をゆすぐ時になってもうプラスチックの縦に長い結構な大きさのボトルには何も入っていない事に気がついたらしい。
「新しいのがそこの戸棚に入ってるよ。」 ファンデーションを塗り始めながら息子に鏡越しに言った。息子はすぐに戸棚の扉を開けて新しいマウスウオッシュを出して来た。子供用のそのマウスウオッシュは透明のプラスチックのボトルなので、中の鮮やかな緑色の液体がアメリカっぽくポップだ。 ラベルにはワイルドウオーターメロンと書いてある。野生の西瓜か。野生なんだ。なんだかすごいぞ。種子多そうだよね、野生だし。野生の西瓜は食べた事が無いので味は分からないが、お店で売られている西瓜は何度も食べた事がある。子供の頃から夏は西瓜だった。4つ上の姉は幼少の時に西瓜をたらふく食べてすぐバスに乗って気持ち悪くなったトラウマにより西瓜が食べれなくなった。よって西瓜は独り占めだった。西瓜は好きだ。しかし歯を磨いた後に西瓜味のマウスウオッシュで口をゆすぐ気には到底なれない。それを何とも思わない息子は凄いなあ。若さ? 半分アメリカ人だから?
新しいマウスウオッシュには上のキャップのところにぐるっとプラスチック素材のラッピングペーパーが巻かれている。ここから引きちぎって開けて!みたいな文字が見える。息子はその指示通りにそのキャップに巻かれたラッピングの一部を引きちぎってマウスウオッシュを開封しようともがいているのだ。何度も指で引きちぎろうともがいたがそのプラスチックのラッピングは負けない。指なんかで引きちぎれるもんか。とばかりに1ミリも破れないのだ。息子はしばらく格闘していたが諦めてハサミを使う手段にでた。眉毛を整える時に使う小さなハサミ。日本製。そのハサミの先でちょっキャップをラッピングしてあるプラスチック素材のそれに切れ込みを入れたらそこからスルスルと簡単に取れてマウスウオッシュのキャップが出てきた。何の不平も言わずにマウスウオッシュのキャップを開けてその野生の西瓜味の真緑の液体で口をゆすいでバスルームから出て行った。こんな時に必ず文句が出るのが日本で生まれ育った母親である。日本製品、全てが開けやすい。 ちゃんとここから開きますよ~的な切れ込みも必ず入っているし、お菓子なんかの箱だと食べやすい様に開けられる。さすがだ。おもてなしの国。細かい配慮。アメリカ、ハワイに住み始めた頃は色々な製品の開けにくさに愕然としたものだ。硬い透明のプラスチックに入って売っている製品。両面がプラスチック。薄いプラスチック板でラミネートの様な状態でその中にピチッと商品が入って売られている。その中央付近に大概肝心の製品が挟まっている。ここからお開け下さい。なんて間違っても書いていやしない。家で1番大きなハサミを出してきて渾身の力を入れてそのプラスチックをジョキジョキと切っていく。中身の製品を切らない様に気をつけながらだ。ある時そんな不満をアメリカ人の義理の母にした所、良い物見つけたわよ!とプラスチックラミネートで開けにくい商品が簡単にジョキジョキ切れると言うハサミを貰った。ありがとう!これでこれから楽になります! しかし、そのハサミも例のごとくプラスチックのラミネートの中に入っていたのだ。しかも今までで最強の硬さのやつ。このハサミを取り出す為のハサミが必要じゃん。エンドレスのループ。ミイラ取りがミイラになる的な。これは荒手のジョークなのか? いや、至って本気なのか? 日本人にはその本心は分かるまい。
たいがいの開かない物は歯でかじってこじ開けるアメリカ人の夫。原始的である。開かないお菓子の袋なんて容易いものだ。歯、丈夫なのね。カルシウムありありだね。こんな丈夫な歯を持っているからちょっとやそっとの開けにくさなど気にもとめないのだろうか。
最近の1番の衝撃は息子が間違った開け方できのこの山を開けて食べていた事だ。ハワイでも比較的きのこの山は手に入れやすい。ある日ふときのこの山を開けている息子を見た。箱の側面を手で荒々しくこじ開けてからきのこ達が入った袋を出してそのはじをビリビリに破いて開けているのだ。「違うよ、違う!それじゃせっかくの箱の意味無いじゃん!」息子に言った。きのこの山はまず箱の上面をミシン目に沿って開け、袋は箱から出さずに中の袋の上部を指示通りにピリッと横にスライド開封で開けるのだ。そうすればそのまま箱から食べれる。残ったやつだって蓋を閉めればまた後で食べれる。それがきのこの山だ。「半分日本人!ちゃんと開け方の指示通り開けるべし!」息子に注意した。
後日、日本の姉から送られて来た箱に入ったチョコ菓子を浮かれながら急いで開けた。箱の側面の所から。のりで貼られた箱の側面は一度開けたら閉まらない。全然気にもとめなかった。開けてから気がついた。ああ、ちゃんと食べやすい様に箱の上部に開け口のミシン目が見える。こんな開け方をするなんてアメリカ生活も長くなったもんだなとしみじみ思うのだ。