『ドビュッシーと活字中毒者のメランコリー』
お酒を飲んだら涙が流れるようになったのはいつからだろう。酔いが回った顔で笑ってみせても、ドビュッシーを聴いてみても、死にたいと口に出して言ってみても、ただ苦しくなるだけで、死ぬことなんて出来やしなかった。
マガジンラックはもうずっと埃を被って、好きだったファッション雑誌の廃刊の知らせがいつだったかも覚えてはいない。
最後まで読めなくなった小説が枕元にいつもあるのは、自分が無くなるのが怖いからだ。
聴こえるすべての音は私を苦しめた。
目に見えるものたちは汚らわしかった。
だから、ふとした瞬間に活字が体の中に流れて鼓動が高鳴った時、自分自身の体はその高鳴りを決して忘れてはいなかった事に、私は嬉しさを感じせざるを得なかった。