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夢歌3

 今朝はいつもより早く出勤した。天気はいいし、清々しい気分だ。一番乗りを期待してオフィスのドアを開けた。

 部屋の風景がいつもと違っている。

 デスクやパソコン、コピー機など見慣れたものが一切なく、会議で使う長机が角に積まれているだけでガランとしている。

 部屋を間違えたか?

 そこには知らない男女が一人ずつ。女の方は会社にいてもおかしくないアイボリーのスーツを着ている。男の方は黒いスーツにサングラス。スーツの下の肉体はトレーニングで鍛えられているのだろう。かなりいい体格をしている。が、醸し出す雰囲気は所謂あまり関わりになりたくないタイプだ。

 すると、女の方が私に走り寄り肩にしがみついた。女が叫ぶ。

「あの男を阻止して!」

 え?一体どうやって?っていうか何で私が?

 面食らいながらも私はヤル気満々である。

 ふと足元を見ると、不自然なくらいにいろんな物が出現している。

 これだ!

 私は誰だかわからない女のために、それらを投げつけ始めた。タバコの箱、ライター、ハンドミラー、ファイルホルダー…。誰かの鞄をひっくり返したようだ。しかし、どれもこの屈強な男を阻止できそうにない。フリッパー、吊り革、犬用のチューイングガム…。何だこれは?

 ナイフ…車のキー。

 すると再び女が叫んだ。

「そのキーをちょうだい!」

 男に物を投げつつ、女にもトヨタのマークがついたキーを放ってやる。

「ありがとう!」

 キーをキャッチした女は礼を言って部屋を飛び出した。それを追おうとする男をナイフで威嚇していると、女はそのまま外へ走り去ってしまった。

 凶暴そうな怪しい男と二人取り残されてナイフまで振り回してしまった私は、万が一男と揉み合いになったときのことを考え、刺殺されるのだけは避けようとナイフを遠くへ投げ、男にナイフを取りに行くか手ぶらで私を追うかを選ばせ混乱させる作戦に出た。二人のあいだに一瞬、奇妙な間ができた。その隙をついて私は男から必死に逃げた。

 そして思った。

 あの女は一体トヨタの車でどこへ行ったんだ?

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