夢歌5
非常階段を上っている。
最上階に着くと、スチールの扉があった。
その扉を開けてはいけない。
頭の中で声がする。
ジャンジャンと鐘を打つように頭が響く。
私は自分の声が止めるにもかかわらず、別の声に誘われるように扉のノブに手をかける。左に回して扉を押した。
薄暗い部屋の中は倉庫のようで、沢山のダンボール箱が積み上げられ、窓をほとんどふさいでしまっている。
そのすきまに人影のようなものがいくつも立っている。
首のないマネキンだった。
木のように立ってゆらめいている。
それは一瞬だった。
ドアの裏から真っ黒い影が飛び出した。影の真ん中でキラッと何かが光る。
しまった、ナイフだ!
あっと言うまもなく私は腹を刺されてしまった。
だがナイフを手にしているのは私だ。
ナイフを突き立てているのは私だ。
私がナイフを突き立てているのは、私に向かってきた影だった。ぷつっとした少しの抵抗のあと、ナイフは影の腹に吸い込まれていった。その皮膚はすべらかで柔らかかった。
影は人ではなくビニール人形だった。
ぷつっ、すうっ。ぷつっ、すうっ。
その感覚を味わうように、私はナイフをビニール人形に何度も突き立てた。そして刺したナイフを下に向かってひいてみた。
人形の腹に縦に入った切り込みの両側に、自分の両手を差し入れる。左右に開くと腹には真っ赤な液体がたっぷりと入っていた。
勢いではねた赤い液体が私のほおにつく。
私の両手も真っ赤に染まっている。
私は真っ赤に染まった自分の指を舐めた。
ジャムだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?