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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P62

5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行③

 薄暗い廊下の奥に部屋が見えてきた。 
 その開け放たれたドアからも涼しい風が流れてきている。
 空調の効いた店内は快適そのものだ。
 私は少しづつテンションが上がりだしワクワクしてきた。
 そして、開け放たれたドアをくぐる。
 部屋に入ると祭囃子の音に混じって案内音声が流れてきた。
『列車居酒屋ー旅が好きーへご来店、真にありがとうございます。ただいまサマーフェスティバル期間中につきまして【夏祭り 盆踊り会場仕様】となっております。どなた様も故郷の夏祭りを思い浮かべながらお楽しみ下さい』

 放送を聞いた黒田さんが顔を顰めた。
「いつもの列車旅行仕様じゃないのか…」
 かなり残念そうだ。
「夏は何処の飲食店も客寄せに必死だからねぇ…。ここらで違う様相を見せて集客に励まないとなんだよ。きっと…」
 野崎課長が慰めるように肩を叩いた。
「ロベルトやジャンに日本の列車旅行気分を味わってもらいたかったんですが…」
 黒田さんはションボリとうなだれる。

 そんな彼らの会話が聞こえてはいたが、私は入った部屋の奇妙さの方に目を奪われていた。
 何故なら部屋中に椅子が並べられている部屋だったからだ。
 我々の他にも客らしき人が居て、その椅子にまばらに座っている。
 黒田さんも野崎課長も空いている椅子に座ったので私とジャンも座った。

 ジャンはキョロキョロと部屋を見回して
「ここで食事やらワインやら飲めるのか?」
と、呟いた。
 私も同感だった。
 どう見てもテーブルもなく何かを食べられるような設備がない。
 黒田さんに聞いてみようと口を開きかけたとき……

『お待たせしました。列車は間もなくオリオン駅に到着致します。どなた様もお乗り遅れのございませんよう……』
と、放送が流れて来た。
「あ、時間ですね。行きましょう」
 黒田さんが立ち上がったので我々も後に続いた。


居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行④ へ続く

https://note.com/yumeoka_ayako/n/nbd96faa129b6



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