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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P60
5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行①
日本の夏は故国ドイツと暑さの質が違う。
来日して数年経つが未だに夏だけはドイツに帰国したくなる。
他の季節は好きなんだがなぁ……。
あ、でも日本の夏の素晴らしい過ごし方が一つあった!
ビアガーデンだ!
夏の身体にまとわりつくような暑さの中、冷えたビールは格別に上手い。
これは日本の夏の暑さでないと味わえないとは思う。
そんなふうに日本の夏を満喫しつつ仕事をしていたら、同僚の黒田さんに『紹介したいお店がある』と誘われた。
私は同じく同僚でもあるフランス人のジャン(フルネームは覚えていない)も誘って行くことを決める。
我々の上司でもある野崎課長も一緒だ。
そして現在……
我々は滝の様な汗を流しながら黒田さんに案内され駅前通りを歩いている。
すると、賑やかなヤパーニッシュサウンドが街の喧騒に紛れて聞こえてきた。
『祭囃子(マツリバヤシ)』という音楽だ。
世界的に蔓延した感染症の流行で地域の小さな祭りから大きな神社の祭りまで中止が相次いでいるご時世(って言い方で合ってるか?)に珍しいなぁ……。
「……? あれ?」
黒田さんが不思議そうに呟いた。
「どうしました?」
一緒に歩いていた野崎課長が問いかける。
「いや…目的の店から祭囃子が聞こえてきたから……
」
不思議そうに黒田さんは首をかしげていたので私は少々不安になってきた。
黒田さんは自信満々で【日本でも珍しいコンセプト居酒屋】だと我々を案内していたのだ。
さっきまでどんな店なのか私はワクワクしながら歩いていた。
店のコンセプトがどんなコンセプトなのかは全く教えてくれなかったので余計に楽しみだった。
「うん…ここなんだけど……」
周囲の建物とは趣きが違う店構えで私が知っているどんな居酒屋とも違っていた。
野崎課長が
「へぇ…。ここが『列車居酒屋−旅が好き−』か……」
と、店を見上げる。
「野崎さんはご存知でしたか?」
「女房と子供達がね。ランチタイムに入った事が有るって前に話してたんだ」
ジャンはキョロキョロ辺りを見回し
「ワタシ、ここが電車の駅に見えるんですが……」
と、聞いてきた。
「お? わかるか? ここは日本の特急停車駅がモチーフになっている店なんだ」
黒田さんが楽しそうに説明する。
しかし…
何故、祭囃子がこの店から聞こえてくるのだろうか……?
居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行② へ続く
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