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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P42
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑦
雨という天候のせいか開店直後という時間帯のせいか…その両方が理由なのか……まではわからないが車内に他のお客はいなかった。
お陰で他人の目を気にする事なく食事ができるのは幸運だと思う。
いや、もし他にお客がいたとしてもこの客席の並びなら他人の目など気にならないだろう。
コンパクトな座席とテーブルが食事に集中できる空間になっている。
私は早速骨付きカルビを食べてみた。
…うん、美味しい!
期待どおりの味だ。柔らかさもちょうどいい。
……でも、お父さんにはちょっと塩分が多いかな。
居酒屋さんだから料理は基本お酒のおつまみだ。
味が濃いめなのは当たり前と言えば当たり前。
なので私は肉を骨から切り離しできるだけ表面の肉を削いでタレを落とせるだけ落としてから父の皿に盛り付ける。
「お父さん、焼いたお肉よ。よく噛んで食べてね」
父は無言で肉を口に運ぶ。
しばらく様子を観察したが喉に詰める様子もなく食べていたので、私も安心してお料理を楽しんだ。
やがてワゴンが近づいてきた。
なんか…本格的!
「丼物…麺類…ピザ…お好み焼きはいかがですか…」
「すみません」
「はい」
「ご飯物って何が有ります?」
店員さんはメニューを広げて説明してくれた。
「親子丼やカツ丼、鉄火丼やにぎり寿司、雑炊やお茶漬けも有ります」
この中で父が食べられそうなのは…
「雑炊2つお願いします」
「かしこまりました」
小さなお椀に雑炊が盛られて供される。
鶏肉と卵の根菜たっぷりな『親子野菜雑炊』だった。
普通の大人だと少し足りないぐらいの量だったが問題はない。何故なら父は年齢のせいもあって小食だし私もそんなに食べる方ではない。つまり丁度良い量の雑炊だった。
そもそもがお酒を飲む人が対象の料理。
サイズが小さいのも当たり前なのだ。
居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑧
へ続く