居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P78
6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント②
古めかしい駅長の衣装は思ったより軽かった。
緊張の余り声が震えたらどうしようかとドキドキしていたがとりあえず役目は果たせたようだ。
ホッと胸を撫で下ろし冷や汗をかきながら私は頭を下げている。
もうシルバーウィークも終わりかけている今日この頃、風の涼しさが一段と感じられた……。
拍手を浴びながら私はつらつらと事の経緯を思い出す。
タウン誌の記者を始めて数年……。
先日、編集長からこの列車居酒屋のイベントの取材を依頼された為に初めて店を訪れる。
もうすぐ開業1年目のこのコンセプト居酒屋はそこそこ繁盛し、街の一部になっていた。
「タウン誌"街角"の柴田健一と申しますが店長さんは…」
私はランチ時間終了間近の時間帯で片付けをしていた店員さんに声をかける。
「はい、伺ってます。こちらへどうぞ!」
元気の良い店員さんに案内され店の奥へと通された。
「初めまして。店長の原田と申します」
深々と頭を下げる中年の男性は頭を上げると名刺を渡してきた。
名刺には『列車居酒屋−旅が好き− 店長 原田 治』と書いてある。
「初めまして。タウン紙"街角"の記者、柴田健一です」
私も名刺を渡しながら頭を下げる。
「初めまして。演劇サークル「YAMATO」の座長をしております東野です」
店長の隣に控えていた彼も名刺を渡しながら頭を下げてくれる。
店長と同じようなやり取りをし、席を勧められたので私は座った。
「いゃあ…聞きしに勝る完成度ですね~」
客席がある方へ目を向けてから話を切り出す。
「自分の夢を全て詰めましたから」
店長が満足そうに微笑む。
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6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント③ へ続く。