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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P57
4.関口 真奈美 センチメンタルジャーニー⑥
乾杯(プロージット)
お互いにアイス烏龍茶の入ったグラスを掲げて軽く合わせた。
"カツンッ!"
澄んだ衝突音が小さく響く。
「『ようこそ』って…。ここはマナミンの別宅かい」
みゃあ先輩がからかうように笑った。
「ここが別宅なら素敵なんですけど…単なる行きつけの居酒屋さんです。旅行気分になれるから気に入ってるンです」
時間が時間の為か平日の為かはわからないが乗客はまばらにしかいない。
目の前の席は2席とも空席だ。
しめた! 今日はこの席を使う人はいないに違いない。
「先輩。前の席空いてるみたいですからちょっと借りちゃいましょ」
私はいそいそと自分のトレイをテーブルから外し前の座席に置き直した。
何が始まるのか全くわかっていない先輩のトレイを同じようにテーブルから外し、前の座席に置く。
そしておもむろに座席を回転させた。
「す…スゴい……」
目をパチクリさせているみゃあ先輩を尻目にテキパキとボックス席仕様にしテーブルをセッティングする。
「どうです? 少しお行儀悪いですけど足を伸ばしても大丈夫ですよ」
私は先輩の斜向いに座って足を先輩の横の席に伸ばしてみた。
……
……失敗だ。
足を伸ばしても微妙にバランスが取れない。
私は普通に座り直した。
「…確かに……動かないのが変な気分になるお店だね」
みゃあ先輩が苦笑混じりにお通しの小鉢に箸をつける。
私は【サジタリウス駅名物 山葵の海苔巻き】を食べてみた。
『……(ツ~ン)!』
目の奥に山葵の辛さが染みわたる。
き…っつ〜い!
私はあわてて烏龍茶を飲んだ。
「先輩この海苔巻きの山葵、半端じゃなくキツいです。失敗したかも」
しかし、みゃあ先輩は
「どれどれ〜」
と、楽しそうに海苔巻きを口に運んだ。
「うっ…!」
先輩もあわてて烏龍茶を飲む。
「……山葵きっつ〜」
「烏龍茶、ピッチャーでもらいましょ」
「何か甘いモンも頼もう」
お互い涙目になりながら注文する品を決める為メニューをにらむ事になった。
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