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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P55

4.関口 真奈美 センチメンタルジャーニー④

 ズンズンズン……
 なんて擬音が付きそうな勢いでみゃあ先輩は廊下を歩く。
 私も早歩きで追いついた。
 待合室の手前でだったけど…

 待合室のドアは自動ドアだ。
 躊躇する事無く部屋へ入る。
 今日の待合室に人はいなかった……
 
 当たり前か……
 もう1時間もすれば閉店だ。

「なんれだれもいにゃいの?(何で誰もいないの)」
「『待合室』だからですよ。客席は別の場所です」
「ふ〜ん…」

 みゃあ先輩はわかっているのか…いないのか……

「それ…よ…り……ごめ…ん…トイ…レ…どこ?」
 あ、ヤバっ!
「あ、こっちです」
 あわてて待合室内にあるトイレへ誘導する。 

 みゃあ先輩はトイレにこもった。
 今、私は待合室で気をもみながら待っている。

 十数分は経っただろうか……
「ううぅ…かんれん(完全)にろ(飲)みすぎた…」
 すみません。私のせいです……
「大丈夫ですか? 帰りますか? 顔色悪いですよ」
「いや…少し休めば……帰れると思う…」
「無理しないで下さい」
「大丈夫。さっきよりかなり楽になったし…」
 そう言って何回か大きく深呼吸をする。
「うん、大丈夫。ごめんね、付き合わせちゃって…」
 いや、飲ませたのは私です。

「で、ここ何処? 駅の待合室?」
「違います。駅みたいな内装の居酒屋さんです」
「は? ここが?」
「そうですよ。奥に行ってみます? 座席も先輩が買ってます。」
「え? マジで?」
「マジで」
 そう説明しながらさっき買ったばかりの乗車券を見せた。
「わあ…マジか……。でも、何? これ列車の乗車券にしか見えないんだけど…」
 みゃあ先輩は乗車券を見て呆然としている。

「せっかくだから入ってみません? ここ、コンセプトが楽しいんですよ。私のお気に入りの居酒屋さんなんです。」
 私はみゃあ先輩にこの店を楽しんでもらいたくなった。

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4.関口 真奈美 センチメンタルジャーニー⑤ へ続く



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