『ロストドリームジェネレーションズ』(凋叶棕)の考察 ~夢の始まり~(ネタバレ)
ZUN氏テキストより
6面のテーマです。
二十世紀の旅人。
二十世紀のノアの箱舟は、期待と不安を乗せて宙を飛んだ。
だが、期待だけを月に置き忘れてきてしまったのだろうか。
未来と言われていた二十一世紀には、
不安とほんの少しの幻想だけしか残されていなかった。
(出典:東方永夜抄 Music Roomより)
このテキストを元にした曲です。ただし、「徒」に収められた他の曲と組み合わせて聞いてみると別の姿が見えてきます。それは「革新的な新しい物の始まりは不安とほんの少しの幻想からしか始まっていない」ということ。
二十世紀のノアの方舟とはもちろんアポロ計画のことでしょう。それを見上げる二十一世紀の僕たち。現代はそれほど夢にあふれている時代には見えない。では、アポロ計画の人々の真の姿とは、、、?
背景概説
東方Projectは自らの作品の設定や音楽をもとに一定のガイドラインのもと自由に二次創作することを推奨しています。
この曲の登場人物は蓬莱山輝夜ことかぐや姫と、その従者八意永琳です。
原曲は ヴォヤージュ1969という曲で、1969年とはアポロ11号が月面着陸した年です。また、この曲について作者(ZUN)自身のコメントがあり、アポロ計画に触れています。なので、アポロ計画を題材にした曲と、そのコメントを題材にした曲です。
歌詞分析
Does that one small step for man
really become a giant leap for mankind ?
あの小さな一歩は本当に人類にとって大きな一歩になった「のか?」
―かつて、旅人がいた。
大いなる夢を託され、
「期待」と、「不安」を抱いて、
箱舟に乗って、彼は旅立った。
―かくして、その旅人は。
大いなる夢を成し遂げた。
小さな、人の一歩を、
偉大な証を、そこに刻み込んだ。
まさにアポロ計画を暗喩している表現ですね。「期待」と「不安」を抱いて旅立った。「偉大な証を埋め込んだ」。わざとこの部分をノイズ混じりのメロディにしているのはアポロ計画というのは過去のことであり、過去のことというのを強調するためではないかと思います。
その一歩が、成しえた、
大いなる飛躍は、
ぼくらに夢の続きを託したようだけれど、その夢の続きを、
託されたぼくらが、
生きる世界は、どうやら。
大いなる夢を抱けるほど、
期待に溢れてはいなかったんだ。
アポロ計画を過去のものとして見る僕たち。大きな夢を抱けるほど期待にあふれているようには見えない時代。
―どうして、
置き忘れてしまったんだ。
二十世紀の旅人は、
確かに抱えていたのに。
―或いは、
そんなものは、最初から、
偽りの幻でしか、無かったのか?
期待にあふれる時代があったのに置き忘れたように見える。なぜ?そんなの偽りの幻だったの?
そうしてぼくらに、残されたのは、
かわりにぼくらが、抱えているのは、
不安とほんの少しの幻想だけなんだ。
今に残されたのは、抱えているのは、不安とほんの少しの幻想だけ。
Does that one small step for man
really become a giant leap for mankind ?
ここでもう一度
あの小さな一歩は本当に人類にとって大きな一歩になった「のか?」
という問いかけられています。
さて、続ける前に、アポロ「1号」について説明しておいたほうがいいでしょう。
ご存知、アメリカの威信をかけたアポロ計画。まさに初めての月面宇宙旅行。数多くの確認するべき技術があり、一つ一つ検証していった。そして、アポロ司令・機械船に人を乗せての試験を行うことになった。しかし、そのロケットは爆発、炎上して乗員3名全員死亡という事故が起きてしまう。事故調査で数々の欠陥があったことが判明した。NASA長官、副長官、有人宇宙飛行監督官、アポロ計画指揮官が議会に招集された。さらには、NASAの隠蔽工作まで発覚した。しかし、、、、20ヶ月の計画停止を経て再開し、その結果は知っての通り。
詳しくはwikipediaで
アポロ計画の時代こそ、わからないことだらけで不安のほうが大きかった。不安に比べれば遥かに少しの幻想しかなかった。ですが少しの幻想、小さな一歩をもとに進んでいった結果が大きなアポロ計画の完遂。ほんとにそれがわかってるの?未来の人間に伝わったの?というのが、「あの小さな一歩は本当に人類にとって大きな一歩だったのか?」という問いかけ。
『ロストドリームジェネレーションズ』という曲、そして、「徒」のCDの曲の流れは、そう、「大いなる夢を抱ける期待に溢れた時代。」が偽りの幻だということを示しているということです。
現代に近いところでも、こんなものうまくいくのか?なんて思われつつ少額助成金を受け取り、そしてうまくいったiPS細胞や、奇妙なタンパク質の鍵穴を調査していたら生まれたオプジーボなぞ有名な通り、後からみたら偉業と言えるものは、どんなものも大きな不安と小さな幻想からしか生まれてない。
ここで、
―未知なる、世界を目掛け、
全てを暴いていって、
残った世界の残滓に、
どんな冒険が残されたのだろうか?
様々な分野についてとことん調べつくされたように見えて、冒険なんかないように見える。
「未来」と言う、響きに、
こめられた思いは、
尊い光を放ち続けたのだろうが、
その、謂わば「未来」に
生きていくぼくらは、
「何に思いをこめれば、いいのか。」
なんて問い一つさえ、
満足に答えられはしないんだ。
アポロ計画の人たちが未来に込められた思いは期待に溢れたものだったと思えるのでしょう。ですが、いざ未来に生きている僕たちは「何に思いを込めれば、いいのか」すらわからない。
どこかに期待に溢れたものがあるように見えるはずだったが、それが見えない。
―いつしか、
夢を無くしたぼくらが、
「Voyager」として旅立つことを、
託されていたのだとして。
―いったい、
二十一世紀の旅人達は
何処へ、向かっていけばいいのだろう…?
旅人として旅立つことを託されているが、どこへ向かえばいいのかわからない。だって期待にあふれるものがないから。
こうしてぼくらが、求めているのは、
かわりにぼくらが、叫んでいるのは、
不安とほんの少しの幻想だけなんだ。
期待にはあふれるものはないが、それでも少しの幻想をもたせるものはある。ただし、それは不安なものでもある。
ぼくらは、
夢も持たずに生まれて、
ぼくらは、
行く先もわからぬ旅路の、途中。
期待に溢れた夢なんてものはなくて生まれて、行き先もわからない旅路の途中。先ほど旅人として旅立てと言われて実際に今生きて何らかの道を歩んでいるが、行き先はわからない。
夢の無いぼくらは、夢を探して。
夢を求めて、幻想を手繰り寄せる。
そうして得た「幻想」でさえも、
きっとぼくらは。
いつか暴かずにはいられないんだ。
なにか探して、求めて手繰り寄せようとする。だけども、幻想をたぐり寄せるということは、幻想の本質を知っていくということ。つまり暴く。暴いた結果うまく行かないという結果が示されるかもしれない。暴いた結果、道は遠いということかもしれない。暴いた結果は『スターゲイザー』でも関わってきています。
―ああ、どうして!
置き忘れてしまったんだ。
二十世紀の旅人は、
確かに抱えていたのに!
―或いは、
そんなものは、最初から、
偽りの幻でしか、無かったのか?
そうしてぼくらに、残されたのは、
かわりにぼくらが、抱えているのは、
不安とほんの少しの幻想だけなんだ。
期待に溢れた時代というのは偽りの幻。どの時代にもない。いつの時代も革新的なもの始まりにあるのは不安とほんの少しの幻想だけ。
夢の無いぼくらに、夢をひとつ。
夢の無いぼくらに、幻想をひとつ。
不安とほんの少しの幻想を探すんだ。
ここで、ほんの少しの幻想を「探す」と変わっています。そう、何かしら新しい物事に向かって歩み始めたということです。
不安とほんの少しの幻想を抱いて。
不安とほんの少しの幻想を求め。
不安とほんの少しの幻想を叫び。
不安とほんの少しの幻想を探すんだ…
新しい物事は不安がつきものです。この段階ではほんの少しの幻想、だが、それを抱き、求め、こうしたいと叫び、探し始めたと。
Does that one small step for man
really become a giant leap for mankind ?
こうやって歩みだしてこそ、アポロ計画の人々の
That's one small step for man, one giant leap for mankind
「小さな一歩は人類にとって大きな一歩になる」
というメッセージが伝わるというもの。
Next: be your shield