「人狼」考察 ~自らの敵を探し、叩く獣たちの炎上騒ぎ~
はじめに
「人狼」はもちろんゲームとしての人狼ゲームを基にしています。噤の世界の中では、何かの失態をしてしまった人間に対して、悪い狼として叩く何かを見つけて炎上する様子を示している曲です。
背景概説
この曲の主人公は半分人間で半分狼の今泉影狼です。「怖いわー人間怖いわー」というセリフもあり、ゲーム作中でも人間を怖いものとして恐れている存在です。
歌詞分析
さあ探しましょう
この中ひとり裏切者がいる
ヒトの癖に図々しくも
私たちのフリをして
交錯する視点
曖昧な疑念
疑わしきは誰でしょう?
でも私を指ささないで
背中がざわつく
影狼が人狼ゲームの狼として指さされました。
粘り気を帯びた
その目線が
私の心の奥を
まさかこんなにも強くかき乱してしまうなんて
あの敵を叩けば良いと指さされた影狼にとって、敵として叩こうとする奴の視線は余りに恐ろしいものなのでしょう。
わからないのに
わからないのに
みんな決めつけてくるの
そんな頼りのない印象だけを証拠に
人を叩くのなんて悪いという根拠なんて、頼りのない印象にすぎないことも多いのでしょう。
卑屈に俯き 笑う 笑う ああそのたび
わかっていたわよ ぜんぶね
私なんて──獣(ヒト)呼ばわりよ。
自分たちが正義だと叩く人間は正しいと思っているため笑うのでしょうが卑屈な笑顔です。ブックレットでは獣となっていますが、歌声ではヒトとなっています。最後の「獣は誰?」ともつながっているのでしょうけども、叩く周りの人間の方が獣だからでしょう。
餌の気持ちがわかったなんて
幻想にもほどがある
喰われるものの気持ちなんて
喰われるまでわからないわ
『頭を噛み砕いて』
『鮮血(あか)を浴びて』
『人間(ひと)だけを狙った』のも
ぜんぶ私には 覚えのない 遠い物語よ──?
あの敵を叩けば良いと餌にされた影狼の気持ちなんてなってみないとわかりません。影狼に親切心から声をかける人がいたのかもしれませんが、わかってもらえないように見えるのでしょう。あの敵を叩けば良いとされた影狼について、周りの人は覚えのない物語を語ります。
ウソじゃないのに
ウソじゃないのに
誰も信じてくれないの
どうせお前なんだと言わんばかりの態度で
あの敵を叩けば良いという敵にされた影狼の言葉なんて誰も信じません。
皆の視線が 刺さる 刺さる ああそのたび
もう大人しくしてたのに
思い出すの──『あの時』のこと。
月夜の晩に出歩いていた
その赤毛が何よりの証拠だ
呪いか幽鬼の化身か
お前の仕業だと占われた
オマエはいったい何者なんだ
正体を明かせこの物怪(バケモノ)が
私が誰なのかなんて──私が一番知りたいわ!
過去にも影狼は何かしら失態を冒してあの敵を叩けば良いという敵にされたことがあったのかもしれません。失態を冒す影狼は何かしらの化け物ように扱われるから叩かれます。だけど、失態を冒した理由なんて影狼も深く考えていないからしてしまってわかっていないものです。たまたまの時の運のこともあるでしょう。
わからないのに
わからないのに
みんな問い詰めてきたの
まるで私が全部悪いみたいな目をして
覗いた悪意に 怯え 怯え ああそのたび
一番怖いのはどうだって
人間(あなた)たちよね──
声も相当悲痛さを増しています。影狼は恐ろしい、怪物だといいます。けど、一番怖いのはあの敵を叩いても良いと叩く周りの人間たちでしょう。
しょうがないのに
しょうがないのに
誰も許してくれないの
『村一つ丸ごと食い荒らしてしまった』って
碌にね話も 聞かず 聞かず ああそんなの
誰だって牙を剥くわよ
じゃあ聞くわね──『獣』はだあれ?
影狼についての悪意のある噂はどんどん広がっていきます。あまりの悪意に影狼も乱暴な反応である牙を剥いたこともあったのでしょう。そして問いかけます。「獣はだあれ?」と。もちろん周りで影狼を指弾する人間たちが獣です。
まとめ
人狼ゲームは自分たちの中にいる獣を見つけるゲームです。そして、影狼は半人半獣で実際獣です。獣ゆえの過ちもしたのでしょう。しかし、周りの人間の方がはるかにに野蛮な獣になっています。
マシュー・サイド著「失敗の科学」では、恐ろしい出来事があると、犯人を見つけて罰を与えようとする動きがあり、それを「魔女狩り症候群」と名付けています。 非難は罰では解決しないどころか、社会的に悪影響があるとも言っています。
影狼は何かのミスをしてしまったのかもしれないでしょう。しかし、影狼を襲うのは余りに一方的ですし、根拠もなく、狂ったような乱雑な叩き方です。叩く人間こそ獣の狼でしょう。
「あの敵を叩けば良い」なんて考えの元、人は暴走しえます。「人狼」は暴走する人間たちが獣となり暴走するという状況を暗喩しています。