凋叶棕「まぼろしの友達」の考察~人は想像の偶像に恋をする~
おそらくこの曲は未熟な恋心の曲でしょう。どこかに私をすべて受け入れてくれる恋人がいるはずだという偶像。お互いを尊重し合う恋人になれていないから友達。想像で相手を見ているからまぼろし。人間は一人で生まれて、経験や、知識を得なければ、他人についての意識はもてません。いつか気付かなければ何歳になっても相手を見ないということもあるでしょう。
一方で回りを見ないということですから、余計なことを考えずに強い行動力を持てるという裏返しかもしれません。
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背景概要
東方Projectは自らの作品の設定や音楽をもとに一定のガイドラインのもと自由に二次創作することを推奨しています。
この曲は判別眼のビブロフィリアという本居小鈴の曲のアレンジです。本居小鈴は幼いですけども周りを見ず好奇心旺盛なキャラクターです。この曲の主人公を以降小鈴として書きます。
歌詞分析
ずっとあなたを探していたーー
心のどこかにいると知ったーー
きっといつまでも変わらない
まぼろしの友達
幼稚な心では、「心のどこかで」「すべてを受け入れてくれる人がいるのではないか」と考えたのでしょう。
実際は別人なのですから、すべてということはありません。それでも赤の他人よりははるかに受け入れてくれるでしょう。
全てを受け入れてくれる人はまぼろし。そして恋人になれていないから友達。いつまでも変わらないのは友達じゃなくて小鈴の方じゃないですかね?
陽が消えて赤く
翳が消えて暗く
胸中の思い固く
あなたに今捧ぐ
夕焼け時、告白にはよい時間です。
可能性として、すべてを受け入れてくれる人を求めてしまえば必然的に恋は破綻します。後に「密かなる葬送」があるので、陽が消えたり、翳が消えるのは、小鈴の前の恋の破綻かもしれませんね。
ちいさな謎ひとつ
あなたにむけて問いかける
『私の躯は
誰が見つけるのでしょう?』
「私の躯」は、「小鈴のすべての理解」じゃないかと思います。
どこかにすべて小鈴をわかって小鈴をすべて受け入れて尽くしてくれる人がいるはず。そんなまぼろし。
色恋はお互いの尊重・承認欲求の承認あってのことだと思います。時に理不尽な破綻もあるでしょう。前の恋の破綻などの傷を抱え、傷もわかってほしい。傷のことを指して躯と書いています。なので「私の躯はだれが見つけるのでしょう?」とは「傷を持った自分のことをだれがすべて理解して受け入れてくれるのか?」じゃないかと思います。
単純な答えを
いつまでも引き摺って
わたしだけを見て
子供じみた思想
傷は整理して忘れ、傷を気にしないうえで別の魅力が合致する人を探すしかありません。なのに、別の答えを求めて引きずっている。傷ゆえのコンプレックスを抱き、「すべて受け入れてくれる人がいるはず」「わたしだけを見て」、「でも受け入れてもらえないかもしれない」と自分ばかりの子供じみた思想。色恋は双方の承認欲求・尊重あっての物なのにね。
けれど いいの それで いいの
だって いまも 子供だから
自分勝手に 我儘に
あなたを連れていっていいの
子供という言葉は免罪符。やはり自分の本能のままに動くと気分がいいですし、アクティブになれますからね。色恋であればある程度お互いを受け入れるのは当然でしょう。相手が小鈴を尊重して故に我儘に付き合うのに、小鈴は相手が我儘に付き合うのが当然と考えています。
目惚ろしに
あなたを そっと そっと そっと かさねて
そのさきに けして代えられないものをみていたの
小鈴が見ている相手はまぼろしの相手。また、小鈴が相手に惚れているから「目」「惚ろし」となっています。そして、小鈴が描くまぼろしを相手に重ています。
密やかな葬送
影で飾る仮装
過去の傷となった恋を終わったものとするのが密やかな葬送。そして、新しい恋に向けて仮装で飾っています。
手放せない夢想
揺るがせない理想
それでも「すべて受け入れてくれる人がいるはず」という、夢想、理想は外しません。
そして選び取る
たった一つの思いに
ただ拘泥する
それしかないと思い込む
強い感情に
振り回されることだけ
あなたしかいない
子供じみた思想
誰か相手が見つかったのでしょう。そして幼さゆえの強い感情ゆえに、見つかった相手こそが「すべてを受け入れてくれる人だ」とこだわり、思い込みました。まぼろしを重ねました。
だから いいの
気付かないの
選ぶ道は 少ないほど
思い詰めて気が逸って
何をしてしまってもいいの
強い感情を相手にぶつけます。小鈴の描くまぼろしの相手と実在の相手は必ずしも一致しないことを気付きません。それでも思い詰めて、気が逸って、小鈴のわがままや「すべてを受け入れてくれる人だ」という願望のままに願望をぶつけます。
ぶつけてしまっても良いとよいと考えているのです。
永遠に謎のまま
『二人は何処へ消えたでしょう?』
当然そんな我儘全力投球であれば相手は逃げます。小鈴の傷をわかってくれる相手はいなく永遠に謎のままでした。小鈴と、実在の相手の二人の関係は消えます。
わたしの書く世界には
二人しかいなかったの
小鈴が書く世界には、小鈴と、小鈴が願うまぼろしの相手の二人しかいませんでした。
まぼろしの相手と実在の相手は異なったのです。
わたしのこと
憎んで 怨んで 嫌って 呪って いいから
そのまえに わたしと一緒に遠くへ行ってほしいな
実在の相手は小鈴から離れて行きました。小鈴も嫌われたのはわかりました。
一緒に遠くに行くというのは心中を願うのかもしれません。ただ、心中という形でも、小鈴のことを意識していて小鈴の我儘を聞いてほしいという表れ。
目減らしに
明日を そっと そっと そっと はずれて
その全部 わたしの所為にしてくれていいからね
小鈴は小鈴を嫌った実在の相手が気に入りません。実在の相手が小鈴を嫌ったことをはっきり小鈴の所為だと攻撃すれば、小鈴の幻想と恋心も減ると考えました。だから実在の相手を傷つけるようなことをして反発を狙います。ここでは「目」「惚ろし」が、「目」「減らし」となっています。嫌ってくれるのなら、小鈴の中の感情が減るのではないかと小鈴は考えたのでしょう。
でももしも
あなたがわたしに 笑ってくれたなら
そんなまさか おそろしいほど不幸せなことだよ
2つのケースが考えられますね。
(1)小鈴に小鈴自身の歪みに向き合わせるということを笑うとしている。(2)小鈴の「すべてを受け入れてくれる人だ」という願望にすべて付き合うことを笑うとしている。
(1)について、小鈴が歪んだままなら、「笑う人」は小鈴にしてみれば自分を上から目線で批判する人にしか過ぎません。批判は小鈴の成長を願ってのことだったのかもしれませんが。小鈴にとっては小鈴をすべて受け入れてくれなかったわけだから不幸。
(2)について、小鈴の欲望は肥大し、相手を尊重せず見ないまま歩みます。とすると、相手にとっては相手を尊重してくれず我儘ばかりの相手でこの上ない不幸でしょうし、小鈴も歪みに気付かずに不幸のままではないでしょうか。
Pixiv Fanbox
Pixiv Fanboxに、まぼろしの友達含めてQの解釈が記載されています。
https://www.fanbox.cc/@rdwithleaf/posts/6081826
有料サイトなので内容ぼやかしますけども、一つの過程として、何か思い込みを胸に突っ走ってしまい、無理やり心中に付き合わせたなどという話があります。
人間関係といっても、所詮他人のことは想像で考えるしかありません。想像を踏まえて現実を知るか、あるいは「知らないままの子供でいるか」。
知らないままの子供もそれなりに楽しいでしょうけど、他人が絡むとそうじゃないですからね。
まぼろしの友達は衝突して消えてしまったお話として。
まとめ
色恋は赤の他人がかかわりあうものだし、さまざまな事情もあるために、傷なしではいられません。傷も案外他人から見たらたいしたことではないかもしれません。一方でまぼろしすべてを受け入れてくれる人というものも存在しないものです。