期限付きモラトリアム、前夜
卒業旅行と称した旅行には、2回行った。
1回目は別府、
2回目は隠岐島。
まずは別府、別府には、なんで行ったんだったっけ。
とにかくさんふらわあに乗りたかったような気がする。
絵にかいたような旅をしたかったような気がする。
九州に行って見たかったんだったような気がする。
船という、ちんたら遅い乗り物で九州にいく。というアナログな感じを求めていたんだろう。
私は、旅にとにかくダサい恰好をしていきたい。
逆にダサい恰好をしていけない先は、旅じゃなくて旅行、用意された観光を楽しむツアーな気がする。そのつもりが無くても、誰かの息のかかったツアー。
ダサい恰好をしていった先では、変な格好をつけなくてよくなる。
吹っ切れてしまう。
お店で買ったおにぎりを食べながら歩けるし、膝上までズボンのすそをまくって歩くこともできてしまう。タオルを頭に巻いてあるのも余裕。
このマインドセットができると、旅モードに切り替えられる。
さんふらわあだって、それでいうと用意されたツアーがかっているとは思う。スタッフたちがやたらと若かったり、雑談をしているところを見ると、
そうか、どこかで雇われた、集められたスタッフなんだな、と「準備」の裏側を見た気になって、少し現実にひきもどされる。
でもなんだろう、この非効率な感じが良いのか。
非効率だけど、夜じゅう走って朝目的地に着く、そして安い、雑魚寝っぽいことをする、いろんな要素がとにかく学生、若者っぽくて心地よくて、フェリーの旅とはバランスがとれたものだと思う。
そんなわけで、別府という行き先の決定は、さんふらわあに乗っていけるから、ということからだったはず。
前夜というタイトルながら、当時なんの準備もしなかったと思う。
翌日発のさんふらわあだけ予約し、宿泊先は取らず、
グーグルマップでふんわりと、九州の広域地図を眺めただけだった。
本当は、クロスバイクを持っていきたかった。
本当はアクティブではない自分を鼓舞するためのギア。
しかし、本来怠惰な自分の旅ボルテージを、なるべくさんふらわあに乗るまでに落とさないよう努力する必要があった。
さんふらわあに乗るまでに自転車を1時間半漕ぐことでネガティブな感情が湧いて出てきてしまうことが目に見え、クロスバイクの持参をやめた。
幸い現地の安いクロスバイクを予約でき、とにかく出発の日を迎えることができた。
この時点でまあまあナイーブな気持ちが芽生えてはいたが、
予約してしまったんだ、という事実だけが私の足をようやくドアの外に向けてくれていた。