シロツメクサの香り
この春は時が止まったかのようなまま過ごし、3月4月のスケジュール帳は空白ばかりが目立つ。
それでも季節は確実に進み、いつのまにか5月はもう目前。
葉桜になった木の下を通った時に、ふと花の香りを感じた。
・・・この香りはシロツメクサの香り。
あたりを見回しても、シロツメクサは咲いていない。それに、花に顔を近づけなければこんなにも香りを感じないはず。・・・不思議。
私は横浜の南の方で少女時代を過ごした。まだ住宅街のあちこちに空き地が点在していた。そこでは色々な花が咲き、バッタやカマキリやテントウムシが顔をのぞかせていた。
そんな原っぱで、友達と暗くなるまでシロツメクサで花冠や首飾りを編んだあの日の香り。
その香りが、ほんの一瞬だったけれど、私の鼻先でくるっとまわって駆け抜けていった。
日が暮れて空気が冷たくなってくる中、家へ帰るときのちょっと寂しい気持ち、家に着いた時に夕飯を作っている母のうしろ姿にホッとする気持ち。
ほんの一瞬の香りのいたずらが、遠い日の気持ちを呼び起こした。
懐かしくて、切なくて。
風が吹いたら忘れてしまいそうなこの気持ちをそっとメモしておこう。
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