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「光復香港」三〇〇〇キロ先のフリーターを衝き動かす。香港ルポその4
荃湾で行われる予定の「手繋ぎ運動」まで時間を持て余すことになった。
重慶大厦内をぶらつき、キャッチを冷やかし、遅めの朝食をインドカレー屋でとったが、荃湾の手繋ぎ運動が行われる夕方まで時間はまだまだある。
さてどうしよう。とGoogleマップを開くと、今いる場所から中国本土の深圳市がそう遠くないことがわかった。調べてみると、尖沙咀駅から電車を乗り継いで一時間ほどの距離だという。
対岸の中国本土はいったいどんな雰囲気なのだろうか。
深圳へ向かうことにした。
中国国境へ向かう東鐵線はそこそこ混んでいた。乗客の多くが国境の最寄「羅湖駅」で降りていった。
東鐵線からホームを覗く。
羅湖駅に併設された入国審査。ツイッターで見かけた情報によれば、香港で起きている抗議活動の写真などを中国本土に持ち込ませないために国境警察が旅行者のスマホやカメラの取り調べをしているらしい。しかし僕が入境した時は特に取り調べを受けることはなかったし、警察が目を光らせている光景も見受けられなかった。
中国側の入国管理局。立派な建物だった。
中国の警察はセグウェイでパトロール。
小学生の集団が中国旗(五星紅旗)を掲げて行進していた。中国建国七〇周年を祝う国慶節が間近に迫っていた。
深圳地下鉄。路線の数はなんと8本。東京並みの地下鉄網。出稼ぎ労働者とみられる外国人が大勢乗っていた。
適当な駅で降りてみる。するとそこには東京都庁並みビルが乱立していた。見渡す限りビルまみれ。
この光景がどこまでも続く。恐るべき中国の経済力。
はためく五星紅旗。
iPhoneのパノラマ機能で撮影したビル群。
これだけビルが立ち並んでいるのに何故か人通りは少ない。街は不気味なほど静まり返っている。十四億の人民は何処へ。
地下鉄を乗り継いでもう一つの国境「福田口岸」へやってきた。
国境付近は大渋滞。
野良両替屋(もしかしたら闇両替屋?)から人民元を香港ドルに両替するお姉さん。
川を挟んで右側が中国、左が香港。ここで写真を撮ったら警察に怒られた。要注意。
香港側からみた中国本土。深圳が経済特区に指定される前はここに広大な田畑が広がっていたらしい。
東鐵線の車窓から見える深圳。
オヤジの怒号と銀バエが飛び交う店内、油で滑る床、将棋を指しながら茶を飲む老人、そんな騒がしい中で僕はラーメンを啜る…なーんてジャッキーチェンの映画の中の光景はどこにもなかった。そびえ立つビル群、生活感が無い廃墟のような高層マンション、整備されたどこまでも続く真っ平らな道路、張り巡らされた地下鉄網。中国の中でも人口密度の高いエリアにもかかわらず、街は不気味なほどに静まり返っていた。地下鉄の乗客たちの表情は、隠し事でもしているかのような暗い表情。たった数時間の滞在だったけれど、深圳に抱いた印象はそんな感じだった。もっとも、郊外へ行けば生活感溢れるローカルな中国が垣間見れるらしいのだが、そこまで足を運ぶ気力は無かった。
かくして僕は想像していた中国とは違う中国に出会いショックを受けてしまい、さっさと荃湾へ向かうことにした。
程なくして荃湾駅に到着。退勤ラッシュの時間帯らしく、駅構内は人で溢れかえっていた。
人混みをかき分けてなんとか駅を出ると、雑踏に混じってどこからか大勢の声が聞こえてくる。
声がする方向へ視線を向けると、目の前を制服姿の学生たちが風を切るように駆け抜けていった。
「光復香港」
「時代革命」
学生たちはそう繰り返しながら駆け足を止め、隣の人と手を繋ぎ始めた。
手繋ぎ運動が突然始まった。
帰宅ラッシュと抗議活動が重なって駅周辺は大混雑
制服姿の学生たちが駅を取り囲む。
照れ臭そうに顔を隠す。女子中学生。
海外メディアも多く集まっていた。
幼い顔立ちをした女子中学生。おそらく十三歳くらい。年端も行かぬ若者も抗議活動に参加していた。彼女らと同い年くらいの時の自分は毎日オナニー三昧。恥ずかしい。
人で形成された鎖はどこまでもどこまでも続く。
本当に多くの人が集まっていた。
誰かが設置した補給物資。参加者のために用意されたもの。
人間の鎖の終点は、駅から一キロほど歩いた大通りに面するショッピングモールの手前あたりにあった。手繋ぎ運動の終了時刻が迫ってきているが、それでもまだポツポツと人が集まってくる。
あとどれくらい集まるのだろうか。
その様子をガードレールに腰掛けて観察していると、手繋ぎ運動より少し離れたところで黒ずくめの人たちが傘を広げて、しゃがみこんでいる。
ありゃ一体何をしているんだ?
近づいてみると、シンナーの匂いがプンと漂ってきた。
カメラを向けると傘で隠されてしまう。足の隙間から覗くと、一人の男がカラースプレーで何やら地面に書き込んでいた。
様子を伺っていると、何を書き込んでいるのかがわかった。
「光復香港 革命時代」
栄光を取り戻せ、革命の時だ。
デモ隊のスローガンだ。
その後ろではスローガンの旗を黒づくめの彼らが道路標識にくくりつけていた。
手繋ぎ運動の終了時刻である二十時を過ぎると、人々は瞬く間にその場を離れ帰路についていった。
ついさっきまで人でごった返していた駅周辺はもぬけの空。
いたるところにスプレーでスローガンが書かれていた。
あれだけの人がいたにも関わらずゴミひとつ落ちていない
各駅に存在するレンノンウォール。抗議ビラやメッセージが書かれた付箋が貼り付けてある。
程なくして僕も帰路についたわけだが、抗議活動を生で見て抱いた印象は「警察も来ないし親中派もいなし、ちょー平和じゃん!」といった感じだった。テレビやネットで見た激しい抗議活動は、あくまで「極く一部」だったのだ。
正直警察との衝突を期待していた僕は、またも肩透かしを食らった。
明日も香港各所で抗議活動が行われる。明日もきっと平和に終わるだろう。
と呑気なことを思うのであった。
あの時、催涙ガスを浴びるまでは。
その5に続く。