猫、かすがい
夫が風邪をひいた。
この2日間、お酒も飲まずこんこんと寝ていた。
喉が痛いと帰って来た日から、マスクをしたまま大人しく寝ている。
お酒を飲まない夫を、どれくらいぶりに見ただろう。
自ら買って来た市販薬を飲んで、静かにこんこんと眠っている。
実に平和だ。
不謹慎だと思われるかも知れない。
もちろん、熱を測らせ、節々に痛みはないか問い、病院行きも勧めたが、とりあえずは普通の風邪っぽい。
時々様子を伺いながらも、この静かな時間に平和を感じた。
今朝、知らぬ間に病院へ行っていた。
やはりインフルエンザでもコロナでもなかったようだ。
安堵して寝室で寛いでいたら、
テレビの部屋から「プシュッ」と言う音が聞こえた。
飲んでいた。
普段、休肝日が全くない夫が、2日も飲まなかったのだ。仕方ないと言えば仕方ない。
なんなら風邪だけ回復して、このままお酒が飲めなくなればいいのにとさえ思っていた私は、
「病みあがりなんやけん、飲み過ぎんでよ」と、冷たく夫に釘を刺した。
聞くわけがない。
段々といつもの鬱陶しい感じになってきたので、箸の使い方や物言いまでにイライラして、お説教を始めた。
「キーキーキー🐒!」
そうしていると、隣の部屋で寝ていたはずの猫がゆっくりやって来て、夫と私の間に静かに立った。寝ぼけ顔で。
「なんの騒ぎや?」と言わんばかりに。
「お父さんが怒られよるけん、来てくれたと?」
夫がアホみたいな猫撫で声で言う。
「なんですかぁ。向こうで寝よったでしょうがぁ?」
私もバカみたいな笑顔でそう言い、彼女を撫でくりまわす。
「もう〜、ほんとに〜」
「もう〜」
夫、ニコニコ。
私、ニコニコ。
猫はかすがい。
二人から撫でられ、猫はとても迷惑そうだった。