シロだかコロだか
風の強い日だった。
白い子犬がころころと転がってきた。
小学校低学年の時だ。
その頃は父の脱サラ前で、小さいが、門や庭のある一軒家に住み、ピアノや習字を習ったりしていた。
学校が終わって、家の外で一人で遊んでいたら、先の子犬が風に転がされてやって来たのだ。
わ、かわいい!
おいでおいでをすると、子犬はこっちにやって来た。
白い子犬。ところどころ、少しだけ茶色く汚れている。
迷い犬だろう。
首輪もしていない雑種犬だ。
あの頃は、のら犬やのら猫を普通によく見かけたものだ。
門の中に招き入れると、玄関の引き戸の外、金木犀の木の後ろの辺りまでついて来た。
嬉しくなって、この子の家を用意しなくちゃと思い立った。
急いで家の中に戻り、解体するまえのちょうどいい段ボール箱を見つけて持ち出した。
浅かったから、みかん箱ではなかったと思う。
玄関の軒下に箱を置いた。ここなら雨にも濡れないだろう。
雨は降ってなかったけど。
あ!お布団も要るね!
またまた慌てて家に戻り、その辺の座布団を持ち出した。
箱にギュッギュッと座布団を押し込み、子犬の方を見ながらパンパンと座布団を叩いた。
ここ!ここ!
ここにおいで!
白い子犬はトコトコとやって来てそこに座った。
舞い上がるような気持ちで、次にすることは?と考えた。
お腹が空いてるかも知れない!
またまたまた急いで家に戻り、台所へ向かった。背中を向けている母をちらちら確認しながら、テーブルに置いてあったちくわの煮物を3つほど口に放り込んだ。
もぐもぐさせながら急いで子犬のところへ戻る。
そうして、口から噛み砕いたちくわを取り出し、差し出してみた。
食べた。
やったー!
うちの子にしたいな。
母に言ってみようか。
怒られるかな。
仮設犬小屋の前にしゃがみ込んで、うっとりと子犬を眺めた。
は!掛け布団も持って来ようか。
とにかく嬉しくて落ち着かない私は、またしても家に戻り、ちょうどいい掛け布団はないか、子供部屋を物色し始めた。
うーん、ちょうどいいのがないなぁ……。
母に言ってみようか?
いや、やっぱりダメだ。
とりあえず掛け布団はあきらめて、また玄関の外へ飛び出した。
すると……。
あれ。
子犬がいない。
門の外へ駆け出て、辺りを見渡した。
いない。
どこにもいない。
そもそも門の下には隙間があった。
子犬ならなんなく通り抜けることができる。
悲しかった。
仲良くなったと思ったのに。
懐いてくれたと思ったのに。
風が強い日だった。
「シロ……」
チカラなくそう呟き、私は風に吹かれながら呆然と立ち尽くした。
「コロ……」
だったかも知れない。
どれくらい立っていただろう。
ちくわの味がまだ口に残っていた。
*
とても短い、シロ、もしくはコロとの思い出だ。
ポチだったりして!