のり弁ドーン!
のぶちゃんとは大学の寮で知り合った。
隣の部屋。
学部が一緒で、のちにゼミも同じになる。
寮は基本1年しか居られなかったから、みんな春前にアパートを探し出す。
そんな時、のぶちゃんに声をかけた。
「一緒に住まない?」
「うん」
のぶちゃんは二つ返事で了承してくれた。
当時、シェアハウスという言葉はまだなかったから、「一緒に住もう」なんて言う甘い誘いになってしまったけど。
他にも何組か一緒に住もうとしている寮仲間がいて、残寮している先輩に相談していた。いわゆる寮長、副寮長さんたちに。
が、お金のことで揉めるからと、大概のチームは反対されていた。
私たちも相談してみた。
あっさり賛成してもらえた。
のぶちゃんは地元の九州訛りがきつく、飾りっ気のない純朴な子で、私もどっちかっつうと純朴な部類に入るおとなしめの田舎者だった。
先輩から見ても安心感しかなかったのだろう。と、振り返ってそう思う。
その頃ののぶちゃんと私はよく食べた。
花も恥じらう女子大生の私たちだったが、よく食べよく喋り、文字通りピチピチしていた。
新しく住んだアパートは、六畳と四畳半の部屋に広めの台所があり、お風呂もトイレとは別についていた。家族が入居するようなアパート。
襖を隔てた四畳半の方が私の部屋。
家賃も光熱費も電話代も二等分。どっちが多く使っただなんだって言う揉めごとは一切なかった。
のぶちゃんと私はよく食べた。
のぶちゃんの実家は魚屋さんだったので、クール宅急便で美味しい魚が時々届いた。
のぶちゃんがそれをさばき、刺身などご相伴にあずかっていた。
大学生の夕食にしてはなんと豪華なことか!
こんな感じで2人で自炊もしていたが、それぞれの部活が忙しい時、ゼミで帰りが遅くなる時などは、近くのホカホカ弁当屋で、一番安いのり弁を買って帰って食べた。
300円しなかったように思う。
貧乏学生には有り難い値段だ。
ご飯ドーン!のりぺターン!その上に白身魚のフライにちくわの磯辺揚げがドドーン!
唇をテカテカにしながら、のぶちゃんの部屋で一緒に食べた。
ガツガツ食べた。女子大生なのに。
空腹時にあの揚げ物の匂い。
食欲が一層かき立てられる。
若いカラダに油もののおかずは、パワーの源以外のなにものでもない。
のりとのりの下にある鰹節と白ご飯の相性の良さよ。
六畳ののぶちゃんの部屋はあっという間に揚げ物の匂いでいっぱいになった。
窓を開け、どちらからともなくお茶を淹れ、それをすすり、ふぅ〜とお腹をさすりさすりした。
満足満足。
大学生活は、ゼミや部活、バイトもあったりでことのほか忙しく、のり弁にはかなりの頻度でお世話になった。
野菜もデザートも添えず、ドーンとそのまま。そりゃピチピチパンパンになるはずだ。
今、年齢のせいもあり、油感満載ののり弁を食べることはほとんどなくなった。のぶちゃんとも遠く離れて暮らしているが、たまに近くのホカホカ弁当屋さんに出向く時、のぶちゃんと暮らした青春の思い出が、その匂いとともに思い出されるのだ。