【苺色の結実】文筆家の母_ふるたみゆき
「くさかんむりに母」と書いて『苺』
矢継ぎ早に紅色の句集が届いて、俳号が『苺(いちご)』。
ああこれは母のしわざだなと思っていたら案の定、海の向こうから電話が掛かってきました。
「なかなかでしょう?」
と、うららかな声。
わたしが句集を読んだ上で明るい感想を携えているに違いない、という口調。
申し訳ないけれど未だ読んでいない事、翻訳書の監修の仕事が少々立て込んでいる事、句集の表紙の色が濃いので題字が見えづらい事、など、など、できるだけ淡々と申し上げると、海の向こうでは少々おかんむりの様子。
電話を終えて「ヤレ、ヤレ」、その紅色の濃い句集を取ってひらくや、末尾の一句。
『春満ちて くさかんむりの行方かな』
なるほど。
母はわたしという娘をあらかた育て終えたので、これからは作品を生み育てることに熱中するのだなと、なぜかその句で悟りました。
後日、編集者に会うついでに句集をみせると、
「これはなかなか良いから、出版を検討しませんか」
思いもよらぬ明るい返事。さて、どうなることでしょう。